短編

□天気が良かったから
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朝起きて、カーテンから差し込む光に天気がよいことを瞼越しに知る。

どうしようか、サラダにコーヒーとサンドイッチの朝食を済ませて、洗濯物を干して、それから・・・


『天気が良かったから』


クローゼットを全開にして鏡の前でためつすがめつ1人だけのファッションショーを繰り返す。
誰かに会う訳じゃなくても、女の子というものは1度で服装は決まらない。

買ったばかりのブラウスがなんだかボトムスとちぐはぐな気がして脱ぎ捨てて、結局上下ともに別のものを引っ張り出して。

なんとか満足いく装いに着替えれば、今度はそれに合わせてメイクとヘアセット。
緩く巻いた髪はポニーテールにしてシュシュで飾り、目元はわりかし甘い仕上がりにすることにした。
日々、こうやって試行錯誤して経験値を上げることでいざという時のテクニックが向上するのだから、本当に女の子というのは面倒でいて楽しいことばかりだ。

1度だけ鏡で全身をチェックして、そのまま外へと飛び出す。

予想通りに雲一つない。
少し歩けば汗ばむほどの陽気は気持ちをたやすく上向かせた。

何をしよう?
特に何も決めていない、こういう時は財布の紐も緩みがちだ。

そういえば新しいパンプスが欲しいな、なにかと便利なジャケットも探したい、映画を見てもいいけれど人が多いのはちょっと倦厭

ふわふわと浮かれた気分で店を冷やかすのは存外楽しい。
ちょっと疲れたタイミングで目に飛び込む可愛い外装に躊躇なく扉を開く。

小洒落たパンケーキ屋さんの窓際を陣取って名前も知らないアーティストの優しい歌声を聞き流してオーダー。
畏まりましたというお決まりのセリフの後に背後でばさばさという音が響いたのはメニューを取り落としたからだろうか?

待っている間にメールとTwitterをチェックして、休日出勤を嘆く呟きにくすりと笑う。
とても最近忙しくて、なかなか会う時間も取れないと愚痴っていたのはもう一週間も前なのに未だに忙しさは健在のようなので、断わられること前提にお誘いをかける。

まさかの数秒後の返答の早さに唖然とするが、こみ上げる嬉しさは誤魔化しようもなかった。

さぁ、夕方の予定は決まったから後数時間をどう過ごそう?

運ばれてきた料理に取り掛かりながら思案するのも楽しくて仕方なくて、今日出かけることにして正解だったと1人頷く。

食後のお飲み物です、あちこちぶつけた痕をつかて先程の店員がカップを持ってくるのにお礼を一つ。
飲食のバイトは大変だろう、かつて散々一通りのバイトを体験して酷い目にあったので心から同情するけれど、なかなか彼女は見所があるようだ。

『Have a nice day!』

ラテアートの温かみのあるメッセージに笑顔が零れる。
ちらりとこちらをうかがっていた彼女もにっこり笑っているのが目に入って心が機嫌良くスキップする。



(あぁ、いい日になりそうだ)





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