短編

□銃口に口づけを
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§  §  §


もともと混戦気味だったところに西軍の増援、しかも率いる将があの“麒麟児”ともなれば双方の兵が浮足立つのも仕方ない。

前線近くまで接近した戦車のキャタピラの上からルルーシュは一人頷いた。

周りに見える色の多くは黒であったが、徐々に紅も混じりだしており副官達が必死になって遠ざけた戦場の真っただ中に飛び込んでしまっているのは間違いない。
それなりに直線的であったはずの戦線は入り乱れて最早ぐちゃぐちゃであり、ルルーシュが一人前に出過ぎたというよりは凸凹になってしまった前線が彼女のところに伸びてきたと分析するのが正しいだろう。

もともと今回戦場になったのはちょっとした崖やら谷やらの起伏が激しい難所であり、むしろ西軍に有利なくらいだったのだからまともに戦線を維持するなど土台無理な話である。

それを思えば接近しすぎて銃を使うより剣を操る兵士たちがほとんどであるのが幸いであった。
流れ弾で指揮官が死ぬのは割とよくある話だが、もしも彼女がここで帰らぬ人となれば一個師団がまるまる全員首を飛ばす羽目になる。


(そういう面倒なのは嫌いだから縁を切れと言ったのに、あのロールケーキに腹黒男め)


東の都で今も滑舌悪く演説ぶっていたり、底の読めない笑みを浮かべているのだろう連中を思い出していたとき、ふと紅い軍服の兵士の一群が目に飛び込んできた。
徐々に黒い兵士たちも散開してしまっていたからこそ気付けたようなものだったのだが、刀を構える訳でもなく妙におどおどと落ち着かず、というよりも恐怖に顔を強張らせている様子がやーやーと騒がしい周囲と不似合い極まりなく感じられて、ルルーシュは眉をひそめる。

6人ほどの紅い兵士たちは皆各々がリュックのようなものを背負っており、それぞれ頷きあいながら黒い兵士たちが密集する場所へと散り散りになる。
ルルーシュの眼の前に残った一人は一度眼をつぶった後、かっと大きく見開きながらリュックから伸びる紐を一気に引きちぎろうとした。

その段になってやっと、ルルーシュは彼らが何者であるのかを悟る。

・・・西軍の軍服が、血潮の紅と呼ばれる訳。
ルルーシュや黎武官が着任する少し前からは取られることはなくなった、西軍お得意の攻撃方法。


(自爆兵――――!!)


自軍の兵士に退避を呼び掛けることも、戦車に後退するよう指示することもできずに決死の顔をした敵兵が閃光に呑みこまれる様をスローモーションのように眼に焼きつけられながら、次の瞬間にその場を揺るがした爆発音にルルーシュは為す術もなく呑みこまれた。



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