短編

□銃口に口づけを
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◆軍パロ


西は血潮の赤き軍服、東は鋼の黒き軍服。
ある時意見の対立から二つに分かれたこの国は、二色に染まった軍人たちがもう何十年も銃を撃ち合い争う戦争状態にあった。


「第二歩兵部隊、Bの8へ進行せよ!三秒後に敵塹壕を爆破する!」


血風と砂塵が舞う戦場を切り裂く高らかな声が響く。
Yes,your hingness!! と応じる声が地響きのように彼女に向けられるも、華奢な身体は揺らぐことなくそれを受け止め矢継ぎ早に指示を繰り出してく。

かっちりとした黒い軍服と膝の中ほどまでしかない短いスカートからすらりと伸びる白い足のコントラストがまぶしい美貌のこの女性こそ、膠着状態に陥って散発的なゲリラ戦で無駄に兵力を消耗していた東軍に新たに着任して見る間に戦況を覆し、兵たちの心を掴んだカリスマ的な指揮官その人である。
運動性を重視してヒールのないブーツが、彼女が歩くたびに司令部の床を叩いて鈍い音を奏でるのを聞きながら彼女の傍らに控えていた副官はたった今届いた情報を彼女に伝える。


「ルルーシュ閣下、西軍に動きあり。“麒麟児”が出るようです」


隠しようもない緊張と僅かな恐れの滲む副官と対照的に、指揮官はあぁ、と小さく息を漏らした。
うっとりとその稀有な紫水晶の眼を細め、まるで恋人の名を聞いたかのように恍惚としながらルルーシュは自分の知略を持ってしても五分の勝率しかあげられない敵方の武将の名をその見惚れるほどに美しい紅い唇へとのせる。


「あぁ・・・、ようやく相見えることができるな、黎星刻」





「あの戦場にいるのか、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが」


同時刻、紅い軍服を纏う西軍においても、同じように熱のこもった吐息を漏らす男がいた。

その軍服と似て非なる紅瑪瑙の目を細めて、まだ見ぬ好敵手の姿を映そうとするかのごとく混戦の様相を呈し出した戦場を見つめる。
東軍に有能な指揮官が着任して巻き返された戦況を再び西軍に優位なものとするべくあちらにやや遅れて着任したのがこの男だった。

貧しい家柄の武官あがりでありながら地の利を生かし、論理的な相手の思考の裏を突くようにその勝敗を五分にまで持ち込んだ男を兵たちは“麒麟児”と呼び讃え、いつしかそれは彼の二つ名となった。

“麒麟児”であるこの男と“無敗の女皇”と謳われる東軍の指揮官は、これまで互いに戦略戦術を介してまざまざと相手の存在を感じていながら一度として相対したことはない。
自ら戦場にうってでることもある星刻と異なり、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは前線にまで出はするものの武器を手に躍り出てくるタイプではなかったからだ。

実のところ、ルルーシュ自身は「指揮官が前に出て闘わなければ部下はついてこない」という持論の下に戦う覚悟だったのだがその些か残念な運動能力を知る副官達があの手この手で言いくるめたなんて経緯があったりする。
流石にそこまでの事情は西軍には流れてきてはいないのだけれど。
そのような事情を知らぬからこそ、ちらちらとその能力を垣間見せながら決して姿を見せてはくれない敵の指揮官“無敗の女皇”に対し、星刻はいつしか敬意と執着とを抱き、つれない恋人に焦がれるようにその逢瀬を渇望するようになっていた。


「今日こそはその顔を拝ませてもらおう」


うっそりと呟いた後、星刻は部下達へとそのよく通る声で号令を下した。




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