10萬打リク作品

□異邦人への福音
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§ § §

「ティエリア」

最近よく呼ぶようになった名前を、追い詰められて切羽詰まった心境の中で振り絞る様に唇に乗せる。
それに返されるのは男なのだか女なのだか判然としない綺麗な声で、それはいつも通りに揺るぎなく、強い。その声が自分を守ると二回目に宣言したのはついこの間のことで、その言葉通りに、彼女はそれを成そうと今自分の答えを待っていた。




気が緩んでいた幹部達のために、直接的には団員の暴走が原因でルルーシュが重傷を負ってしまい、だというのになにかとゼロへの不満を絶やさなかった騎士団に彼女がキレて一番うるさく騒いでいた玉城をアジトの天井近くまでぶっ飛ばしたのはもう一月も前になる。
怒りにまかせて団員達を叱りつけ、実行されると困るんだがと思わず止めに入りたくなるようなことも叫んでいたティエリアだったが、それを煩わしい、不必要な干渉だと撥ね退けるには物理的にベッドとお友達になっていたのもさることながら、端的に言うとルルーシュは疲れ過ぎていた。

授業中に睡眠を補っているとはいえたかが知れているし、そもそも居眠りをよく思っていないスザクやシャーリーに度々邪魔されるし、生徒会に行ったら行ったで相も変わらぬスザクのゼロ批判に神経をすり減らす羽目になる。
夜はゼロとして活動するため短時間しかクラブハウスには居られず、結果としてナナリーと触れ合うこともできない。
最後の一事で瀕死状態のHPに対し、ティエリアが言ったような騎士団のおんぶにだっこ状態は的確にルルーシュの精神を削っていった。

ゼロを慕ってはくれているカレンはルルーシュを嫌っているし、ゼロがルルーシュであると知っているCCは何を考えているのか分からない上に言動は常に神経を逆撫でる。
決して楽な道ではないと知って反逆に踏み切ったものの、対ブリタニア以外の要素に足を引っ張られ過ぎてしまえば、いかなルルーシュとて疲弊する。

小言がましく手厳しいのはCCもティエリアも一緒だが、なにもせずにピザばかり食べるピザ女と違いティエリアはゼロとしての騎士団業務も、ルルーシュとしての学生稼業も結局は手伝ってくれるし、なにより彼女は嘘をつかない。

“僕は人間としてはまだまだ未熟で、ずるくて優しい嘘も、綺麗で冷たい嘘も見抜けない。同じように、僕はそういった嘘をつくことができない”

一種のトラウマだと言っていた。
心を開き、慕い、懇願した相手にひらりとすり抜けて逝かれたことが刺となり、うまく相手を騙すことができなくなったと。
同僚に同じような性質の男がいたせいでそれを不便にも感じていなかったらしい。

そんな経緯の性質を喜ぶのはどうかと思うが、なんせこれ以上ない程嘘にまみれた自分であるだけにまっすぐな彼女が眩しくて、けれど似たようなところのあるスザクと違ってこちらの嘘を許してくれる彼女が暖かくて。
だから自分の為を思って団員達に怒ってくれたティエリアの心が、素直に嬉しい。


(いつのまに、こんなに心を許してしまっていたのだか)


年齢不詳と嘯く彼女は異世界とやらから来たらしいので、もしかするとピザ女のようにずっと自分より年上なのかもしれないのに時折寄る辺のない子どもの様な気にさせるからふとした時に手を伸ばしてしまう。

彼女に与えた部屋ではなく、自分の部屋で丸くなっている姿にルルーシュが浮かべた笑みは、ナナリーに向けるものと同じだった。
そこまで彼女は、突然現れた異邦人に心を許していた。


だから


    『ルルーシュ、僕を信じて欲しい』



・・・、 だから





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