合縁奇縁

□その9
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「鈴の効果はもうそれほどもたないということか」


確かに向こう側が見えないほどしっかり組まれたバリケードは厄介だが、コンクリートの壁とは違い突破できない訳ではない。
だが、これらを崩して通れるだけの道を作るには確実にそれなりの時間が必要となり、恐らくその間に化け物たちを足止めしてくれている鈴の効力は切れるのだろう。
飛鳥井が意識を失ってからどれほど揺らしても鳴らない鈴はきっと本人でしか力を発揮しない代物で、酷い怪我を負って気絶した飛鳥井の意識がすぐには戻らない以上、効力が切れた状態で再び襲われた時に対抗する手段が自分達にはないのだ。


柳の見解に全員が順繰りに互いの顔を見る。
そこにあるのは恐怖でも、絶望でもない。

一人だけ顔を青ざめさせて喚き散らしかけた山下を笑顔で威圧しながら、幸村はのたまった。


「真田じゃない?ここは」


だな、ですね、相次ぐ同意の声を背に、指名された真田は実はずっと持ち歩いてきた手に馴染むそれを握り直す。
仁王からぽーんと放り投げられたものを難なく掴み、確かめる様にバウンド。


・・・確かにレギュラー達はオカルトには強くない。
   飛鳥井の様に不思議な力で化け物を威嚇することもできない、無力な存在である。


しかし彼らは、王者立海の、テニス部レギュラーなのだ。


「ザ・ベスト・オブ・ワンセットマッチ、・・・・真田、サービスプレイ」


幸村のコールが響く。
それに応じる様に、真田は手にしたボールを真っ直ぐ上へとトスする。
ここは階段の傍で教室のある廊下よりは天井が高い、それゆえ普段と変わらぬ高さにボールは舞い、ラケットを構える真田の下へと落下していく。


スパン!


インパクト音は軽やかだった。


ガションっ!


もたらした結果は派手だった。


バリケードを構成している椅子と机に向かって何度も何度も黄色いボールは飛んでゆき、そのたびにガッション、ガッシャン、ドガッ、と派手な音を立てながらバリケードを崩していく。
真田の技である風林火山の火まで使いながらの容赦のない攻撃・・・もとい衝撃にものの数分程でバリケードは倒壊し、中央に人が通れるだけの空間が広がる。


「この程度で俺たちを足止めできると思うなんて、まだまだだね」


戻ってきた真田を労う幸村は、にっこりと、その心中を反映した黒いものの滲む笑顔を浮かべてどこかの坊やの真似をした。




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