合縁奇縁
□その9
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疑心暗鬼という非常事態で一番厄介な状態に陥る前に、極々自然にそれを回避しつつテニス部レギュラーは柳のナビに従って校舎の中を移動した。
よほど先程の男に向かって打ちならされた攻撃的な鈴の音が恐ろしかったのか、目立った襲撃はない。
飛鳥井の右手に絡められた鈴をしげしげ見つつ、赤也はほえーと気の抜けた声をあげた。
「なんだよ赤也、変な声出して」
「変とか酷いッスよ?!・・・や、俺オカルト話とかマジにしてなかったんスけど。本職さんっているんだなぁ〜って」
「飛鳥井が?」
「え、だって化け物追い払えるし、なんかこんなゆーしょ正しい感じの鈴持ってるし」
由緒くらい漢字変換しろ、と小言を言いつつ真田も赤也に同意する。
「詳しいことは図書室で話すと言っていたが、間違いなく、飛鳥井はこの手のトラブルにはなれているようだったからな」
「まぁ、色々一人で抱え込んでパンクしかけるくらいには俺たちと同い年だけどね」
大いに身に覚えのある自縄自縛状態を思い返しつつ幸村も口を挟んだ。
同い年だからこそ追い詰められたのかもしれないなぁとも、ちらりと思う。
例えば本当にこんなオカルト系の本職だったとして、周りに頼れない環境なんじゃないだろうか。仲間とかがいるのかさえ自分達は知らないけれど、たとえ仲間がいても妙に頭が固いと勝手に頼ることが負けというか・・・甘えみたいに感じて意地を張ってしまう気持ちはよく分かる。
「どこかの誰かを彷彿とさせたな、あれは」
ちらっとこちらを振り返ってのたまった柳に、幸村は苦笑する。
確かに思いっきり自分に重ねて説得したけれど、仮に飛鳥井が自分と全く同じ性格だったらかなり刺々しくやりこめていたんじゃないかと彼は自己分析していた。
同族嫌悪にならなかったのは、秘密を抱えつつも飛鳥井が自分達に対して誠実であり、根が素直なのがはっきり伝わってきたからだ。
因みに幸村が評価する飛鳥井の姿勢は実はこの一年の経験の賜である。
中学の頃の彼であれば確実に衝突しただろう。
「とりあえず早く安全な所で休もうぜィ。柳あとどんくらい?」
「ここを真っ直ぐ行けば図書室な訳だが・・・」
幸村達の話の合間をつくよう、に弟たちがいる分案外面倒見の良い丸井が飛鳥井をちらちらと心配そうに振り返りつつ尋ねた。
それに対する歯切れの悪い柳の言葉に、飛鳥井の様子を窺って前方を見ていなかった面々は顔をあげ、そして参謀が言葉を濁した理由を悟る。
「・・・・近づけないなら、近づけるようになるまで足止めってか?」
「鈴のせいかは分からないけど校舎も変化できなくなったからって、これは、また・・・」
思わず全員目を丸くする中で、ずり落としかけた飛鳥井を背負いなおしつつジャッカルが呆然と呟く。
「椅子と机のバリケードだ・・・」
まさしく、そうとしか言いようのないものが彼らの眼前に聳え立っていた。
このまま安全圏に行かれては困る、だが迷路のようにして時間を稼ぐことが何故かできないこの妙な空間の住人達は分かりやすい物理行動に出たらしい。
綺麗に積み上げられた椅子と机を見上げながら、柳は顔をしかめた。