合縁奇縁

□その5
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結局始業ベルぎりぎりになって柊一は教室へと滑り込んだ。
病弱設定がなければ全力で走れたのに、儚げな演技というのは一長一短が過ぎる。
問いかけてくる教師に、気分が悪くて休んでましたなどと適当なことを言いつつ席に着いた。


教師がテキストの文章を黒板へと写し、その読み方を講釈しているのをぼーっと聞き流す。
素で、とまではいかないが職業柄古い歴史資料を読み解く機会の多かった柊一にとって、古文の授業は退屈に過ぎるのだ。
未然形だからどうのこうの、と続く声をよそに胸ポケットにしまった生徒手帳の中身を思い返す。


大学の正門で不機嫌MAXの顔つきで待っていた克也にそれはもうねちっこく嫌味を言われ、抱えていた御神鏡を半ば押し付けて逃げてきたために折り鶴を渡しそこなってしまった。


(だけど僕の責任とまではいかないだろ、これ。学生の昼休みがどれだけ短いと思ってるんだよ!大体にして何であそこまで絡む、関係なくないか?)


“ガキのくせに妙な遠慮をするな腹がたつ。殊勝気にするタマかお前が”

“別に殊勝にしているつもりはない。
単に過去の慣れ合いを続けてなぁなぁになりたくないだけだ。
能力さえあれば歳なんか関係なく対等であれた御霊部と違って、ヤミブンは年功序列があると知っているからこその当然の対応だ。
お前こそなんなんだよ、いちいち絡んできて!気にいらないなら無視しとけばいいだろ!“


あまりのしつこさに言い返した挙句に怒鳴りつけた自分の所業まで思い出して項垂れる。
言った事は思ってる事で別に間違っていたとは思わないが、結局克也の思い通りになってしまった気がしてならない。


最後に見えた克也の、あの楽しげな表情といったら!


苛めることが大好きなサド男に格好の餌をやってしまった。
今日もまた報告を兼ねて克也に送ってもらう予定であるため、放課後を思って憂鬱になる。

こんっ、と丸められた紙が柊一の机に投げ込まれたのはその時である。
ゴミか?と一瞬思うも、投げてきたのが仁王だったためとりあえず開いてみれば手紙であった。
そこに書かれた文面に、思わずびしりと顔が引きつる。


『昼休み全力で走っとったようじゃけど、体調は平気なんか?』


ぎ、ぎ、ぎ、とぎこちなく顔をあげれば丁度振り返っていたらしい仁王がにやりと笑う。


(・・・・・見られた)


彼らの昼食場所は屋上。
屋上からはテニスコートがよく見える。
つまり、テニスコート横も、よく見えるのだ。


投げ込まれた二個目の手紙を見て柊一は今日が己の厄日なのだろうと悟った。



『次の授業は自習ぜよ。ゆっくり屋上で話さんか』





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