合縁奇縁

□その5
2ページ/4ページ

ボールが1つ転がっているだけで人っ子一人見当たらないコートを通りすぎ、横手に広がる緑へと足を踏み入れる。
定期的に手入れされている入り口付近はまだ日差しも感じられるのだが、段々と鬱蒼とした雰囲気が強まっていき、
去年の夏に関わった“入らずの森”を彷彿とさせた。


(まぁ、あそこみたいに物騒な扉を抱え込んでる訳じゃないだろうけどさ)


隠れキリシタンの裔が守ってきた異界への扉。
解けた封印を再び封じるために起きた、あの戦い。


短くも濃かった夏を思い出していれば、視界に朱塗りの鳥居が映った。
駒狐を左右に従えた稲荷の社は、住人がいないせいなのか、やけに心寂しく見える。
御霊部であるとしても信仰心旺盛な訳ではない柊一だが、やはりこうやって廃れていこうとするものに感じるものがあった。

鈴が反応しないことを言い訳に、前回様子を見に来た時はくぐらなかった鳥居をくぐり、開きっぱなしの社の扉をしめる。
その時、社の影に隠れるようになにかが落ちているのに気づいた。


「?・・・・、これ」


気になって拾い上げてみれば千代紙で丁寧に折られた折り鶴。
色も柄も、今朝のダウジングで見たビジョンそのものだった。


(稲荷との関連性皆無な訳じゃなかったってことか・・・)


ひとまずたたんで生徒手帳に挟んでおく。
克也にまとめて渡しておいた方がいい気がしたのだ。

そのまま踵を返しかけて、祀っていたものが消え、御神鏡も納められていない抜け殻の様な社を振りかえる。

・・・別に、そのがらんどうな物寂しさが、自分に重なった訳では決してないけれど。


「・・・新しい御神鏡、手配しておくか」


昔のツテを使うなら、エリ子も文句は言うまい。
ふと思いついただけだが、言い考えの様な気がしてうん、と頷く。
頷いたついでに眼に入った腕時計に、昼休みが残り少ないことを思い出す。

「やばっ」

待たされて不機嫌な克也に絡まれたら午後の授業に遅刻する。
焦って柊一は駆け出した。





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ