合縁奇縁

□その4
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幸村と別れた柊一は、意気込み新たに屋上を目指していた。
教室だと人目につきやすいため、朝早くから生徒や教師がいる訳もない場所を求めた結果である。


りん、と鈴が持ち主を鼓舞するように鳴る。
先祖伝来のこの呪具は、何回か酷い仕打ちに晒されてはいるものの―たとえば某ヤミブンのバイト組など、おかげで赤銅色の統一感溢れる見かけになってしまった―柊一の危機を何度となく救ってくれた大切な相棒である。
時折まるで柊一の心を悟ったようなタイミングで音を奏でる鈴に、付喪神とは言わないが、何かしら宿っているんじゃないかという考えを否定できない柊一であった。

「頼むぞ相棒」

ポケットにおさめられた鈴はまた、りんと澄んだ音を響かせた。



ダウジングとは、地下水脈などを探すために二本の棒を使用し、めあての場所に近づけばそれが自然と動く、そんな結構ポピュラーな失せ物探しの方法である。

それを柊一は鈴で行う。
正式な儀式を経て承継された飛鳥井家の呪具は、主の求めるものを知らせる。

一応あたりを見渡して誰もいないことを確認した柊一は、おむろにコンクリートに胡坐をかくと内ポケットから校内の地図を引っ張り出した。
そして鈴が連なる組紐を巻き付けた左手をゆっくりと地図にかざした。


眼を閉じて、先入観やその他の余計なものを追いやって、まっすぐに垂れ下がった鈴に全神経を集中させる。


求める情報は、この学校に祀られていたはずの、稲荷の居場所。
祀られた場所から離れ、恐らく次に神隠しにあわすつもりの対象を探してうろついているはずのあらぶる神。


鈴を鳴らさない様にゆっくりと地図の上を動いていた左手が、不意に微かな抵抗を感じて止まる。
手ごたえを感じながらも、柊一は表情を変えずに再び左手を動かした。

同時に頭の中に広がる、ビジョン


―・・・砕けた鏡、歪んだ笑顔と涙、・・・丁寧に折られた千代紙の折り鶴・・・―


りん・・ッ


「あ・・・」


はっと我に返る。
鈴が伝えてきたのは恐らく稲荷がみたものだ。
あの御神鏡はやはり、人為的に割られたものだった。

しかし、


「なんで折り鶴?」


お稲荷さんとの関連性が皆無な映像に首を傾げながらも、鈴の鳴った位置を確認する。
そしてそのまま、柊一は困惑を隠さず顔をしかめた。

鈴がぶら下がった真下には、「屋上」の文字があった。
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