PSYCHO-PASS部屋

□冗談のような本当の話
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酔っていたのだ、盛大に。

もともとそう強くはないし、連勤明けで疲れていたし、ついでに一緒にいたのが唐之杜だった。
六合塚に殺されるから逃げ出したかったが「征さんのお酒ー♪」なんてノリで来られてしまえば断れないし、そもそもが珍しく自分が休みなのに六合塚が第二当直で拗ねていたのもあるんだろう、ハイペースの彼女につられてしたたかに酔った自分には、通常あるはずの理性がなかった。


結果。


「え、ええええええ⁉︎宜野座さん⁉︎嘘、やだやだ、どうしたんですか⁉︎」


最近とみに落ち着いてしまって狼狽えるところをみない常守に泣きそうな顔で縋り付かれ。


「え…宜野座執行官?」


嫌味すら忘れたように呆然と霜月監視官に凝視され。


「……志恩と、昨晩はお楽しみだったようですね?」


六合塚から殺されそうな目で睨めつけられる羽目になった。
近くにいたら本当に危険だったので須郷の隣に避難すると、やはり唖然とした顔で見下ろされる。…こいつ、背伸びたよな。


「あの、宜野座さん…」

「そんなに似合わないか?これ」


酔っ払いのノリだったとはいえ大いに盛り上がった昨夜があるため、憮然とした顔で髪をつまむ。
真っ黒だったそれは、今は見事な金髪に染められていた。



「なんか見たことある色だと思ったら唐之杜さんの染色剤使ったんですか……」

『だって宜野座くんてば日本人離れした背だし、彫りも深いし。
ついでにとってもノリよくなったから楽しくて』

「だからって、これじゃもう別人ですよ!昔の厳しかった宜野座さんが優しくなったことであっちこっちからあれは誰だ⁉︎って聞かれまくってるのにこれじゃますます別人説が罷り通っちゃいます!」


わんわんと常守が唐之杜に泣きついている。
未だにこちらを凝視し続ける霜月監視官を六合塚が揺さぶっているが、彼女はどうしたんだ。
そして雛川はなんでさっきから毛先を引っ張る。


「あ、あの」

「どうした雛川」

「宜野座、執行官…、これに似てる…」


しかも自分から話しかけてきた。
珍しいこともあるものだと須郷と2人覗き込んだデバイスには、なるほど今の自分と同じ金髪の男が映し出されている。
今話題の俳優らしい。プロフィールを見れば自分とほとんど変わらない体型数値だ。


「俳優には詳しくないが、彼はハーフなのか」

「珍しいですね。この金髪も自前みたいですよ」

「目も……緑」


ふむ、とホログラムの俳優を眺める。
斜めに立って、ネクタイを少し崩して。低い位置で縛っていた髪をいわゆるポニーテールに括りなおす。
仕上げに、唐之杜から渡されていたサングラス。

あいつ、分かってやってたな。

常守をいなしながらこちらを見ているデバイスの向こうの唐之杜が楽しそうにウィンクしてきた。タイミングよく雛川が再生した声に合わせて霜月監視官を見る。


『貴女を守る、それが私の使命ですから』


どうやらSP役を今度するらしいですね、とのほほんと須郷がコメントする中、硬直したままだった霜月監視官がぐらりと揺れた。
慌てて駆け寄れば六合塚の腕の中で幸せそうに気絶している。


「霜月監視官…?」

「…多分、霜月監視官、この人のファンだと思う」

「そうなのか」

「前にサイン会のチケット見てた」


それはまた、なんというか。
よく喋る雛川といい、この金髪は珍しいものを見せてくれるものである。
自分の感想としてはそんな程度だったのだが、常守と六合塚は厳しかった。


「宜野座さん金髪禁止です!」

「え、似合わないか?」

「似合ってます!でも別人です!」

「サングラスかけてさっきの音声と被るとこの俳優にしか見えません」

「そんなんじゃ霜月さんが毎回気絶したり動揺したりして仕事にならないから禁止です!!」


長い付き合いの2人に反対されたので、後輩2人に視線を向けると困った笑顔が返される。


「お似合いなんですが…確かに宜野座さんじゃないみたいで…」

「音声変換のプログ、ラム、作ろう…か?」


訂正。
雛川は積極的だった。
どうしたんだろう、霜月監視官となにかあったのかと不安なんだが。


「雛川君その技術は緊急事態とかそのあたりで活用しようね!ね!」

「そんな事態って例えばなんだ…」

「た、例えば本人から身代わりの囮捜査の依頼がきて全身ホロ使うわけには行かない場面とか!」


どんな事態だ。

苦しすぎる言葉だったが、こだわる理由もない。
復活した霜月監視官にも猛反対されたこともあり、それ以後髪を染めようという気にはならなかった。




「残念ねぇ、宜野座くん」

「一回やってみたかっただけだし、満足だ」


問題児たちの破天荒な行いを真似てみたいとやってみた、ちょっとした反抗期の子供のような戯れ。
予想外の大きな反応に満足したのは本心なので、名残のようなサングラスをもてあそびながら、唐之杜に笑ってみせたが、後日本当に常守のいった事態がやってくるなんてことは、さしもの分析室の女神も自分も、予想外のことだった。




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