PSYCHO-PASS部屋

□太陽が月に想うこと
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「最近のあなたは、眩しすぎて怖くなるよ」


そう言われて、常守はなんと返せばいいか迷った。
深夜をとうに回ったオフィスは静かで、彼の柔らかい声が耳を通り越して心にさっくりと刺さってしまいそうだ。


「なんですか、藪から棒に」

「いや、霜月監視官を見ていると、ついそう思ってしまって」


初々しさを見せつける霜月とは入局に4ヶ月しか差がないはずなのに、常守からはごっそりと新人らしさが抜け落ちた。散々飼い犬たちに鈍いと言われ続けた宜野座ですら、執行官としての自分を迎えに来た彼女の変化に気づくほどに。


「前にも似たようなことを言ったが、あなたは何か、大きすぎるものを抱え込んでしまったように思う」

「…別に、そんな、急に潰れたりなんかしませんよ?濁りにくいのに定評ありますし」

「あなたが見かけ以上に図太いのは分かっているさ」


叩いていた端末から手を離し、宜野座は監視官デスクに向き直る。
解せないといった顔した常守は、そういう表情だけはかつて彼が監視官だった頃と重なった。


「あなたは上司として非常に頼もしいし、信頼できる。その変化はきっと、抱え込んだものが故だろうしそれが悪いというんじゃない。
ただあまりに強くなり過ぎて、俺では守りきれないほど高くにいってしまいそうだから」


かつての常守は、宜野座にとって見ていると希望が湧いてくる存在で、言うならば暖かな篝火だった。
しかし今の彼女は、強く照らし出す太陽のようで、その眩しさが宜野座には恐ろしい。
篝火なら消えないように守ってやれる。だが、太陽が消えかけた時には無力な猟犬では何もしてやれない。

いたって真顔でそんなことを言ってのける宜野座は、本当に監視官時代が懐かしくなるほど素直な言葉を使ってきて、それがどれほど強烈な破壊力を有しているか分かっていない。入局当初から彼なりにとても自分を気にかけてくれていたのだと分かっていても照れてしまいそうな例えを持ち出されて、しかし抱え込んだもの【シビュラの真実】を打ち明ける訳にもいかない常守はどうすれば彼を安心させることができるだろうかと考える。

何もかもは話せないし、それを宜野座が望んでいる訳でもない。
無茶はしないと言ったところで、多分自分は無茶で危険を顧みない行動をそれが最善なら迷わず取るだろう。
けれど、こうやってわざわざ言葉にしてまで自分を心配してくれる人に、適当な言葉を返したくはなかった。

困らせて悪かったな、とこちらを気遣って今にも話を終わらせそうな宜野座に、たった今、彼に重なったイメージを絡めて言葉を紡ぐ。


「じゃあ、宜野座さんはお月様になってください」

「…月?」

「月です」


月は太陽がないと輝けないが、太陽の代わりに夜を照らしていてくれる。
夜空で小さく瞬く、きらきらとした星を見守っていてくれる。


「私が太陽なら、私だけが皆を照らすんじゃなくてお月様にもしっかり頼らせてもらいます。
私、宜野座さんがいてくれて本当に助かっているんですよ。
多分、私の1番の理解者です」


人を篝火だ太陽だとたとえたくせに、自分が例えられるとは思ってなかったらしい。
宜野座は月なんて柄じゃないと抗議していたが、常守は撤回するつもりはなかった。


月がいるなら、太陽はひとりじゃない。
ひとりじゃないなら、どんなことにも耐えられて、消えかけることだってないだろうから。





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