合縁奇縁

□その10
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東京、文部科学省文化庁文化財部特殊文化財課のオフィスにて、自分に宛がわれたデスクの上に鎮座するものを睨みつけながら克也は凶悪な唸り声をあげた。

睨みつけられているのは本日昼ごろに柊一から預かった御神鏡である。



素人が適当な知識でやらかした、これまた適当な術式の媒体にされた程度のシロモノを、それでも駄目元で契約を追えないかと試したところ想像以上に面倒くさいことになっているようだと判明したのだ。


(一体何見てやったらこんな法則もなにもあったもんじゃない適当すぎる術式になるんだ・・・脳みそ詰まっていないんじゃないか)


声に出して毒づかないのは、基本的に定時であがるエリ子が未だ絶好調に不機嫌な様子で電話の相手をしているからである。口調こそ丁寧だが、額に青筋立っている。
本日は出勤している誠志朗など、電話が切れた後にすぐさま飲み物を用意できるように真っ青な顔で身構えているほどの恐ろしさだ。

頭の固い上層部の口出しに荒れるエリ子の相手は誠志朗に任そうと、あっさり後輩を生贄に差し出しながら克也はすっかり冷めきったコーヒーを一口飲んで席を立った。絶望したような眼差しでこちらを見る誠志朗ににやり笑いをプレゼントしてエリ子を刺激しないようにしながらオフィスから出ると、スマホのアドレスから柊一を呼びだして電話をかける。


鏡に残る痕跡から克也がとらえたのは、術者の意図が呪殺であることと、その実行方法がいわゆる都市伝説や怪談などによるものであること、そして様々な呪いの要素が入り混じった粗悪な術式に使役されかかったナニカが存在することの3つ。
それ以上は術者の雑念が酷過ぎてとらえきれなかったのだが、これでもわかることはある・・・克也達が考えた以上に、事態の解決は困難かもしれなかった。


プルルル、プルルル・・・


「・・・・・・・・・・・・・」


それを早く伝えてやろうと思ったというのに、なかなか柊一が電話にでない。
さっきオフィスを出る時に確認した掛け時計の短針は4の文字を過ぎていて、とうに授業は終わっているはずの時刻だった。
教師につかまったとか、例のテニス部と話しているかしているのかもしれない。どうせ今日も打ち合わせを兼ねて神奈川まで迎えにいく予定であるから、その時に伝えればよいだけの話なのだが。


妙に、克也は胸騒ぎを感じた。


色々と腹の立つ相手ではあるが、御霊部であった時から克也は柊一のプロ意識は一応認めている。もともとの性格もあるのだろうが、仕事に対する責任感は大人顔負けなところがあるのだ。その柊一が、仕事でタッグを組んでいる相手からの電話に出ない。

勿論場所が学校である、教師の前でおおっぴらに携帯は使えないだろうしマナーにしていて気付かないのかもしれない、柊一が電話に出ない理由などいくらでも思いつく。

それでも二度かけて、三回目にコール音が空しく繰り返される音が耳に届くに至り克也は荒っぽく踵を返した。



陰陽師の勘というものは、決して馬鹿にできないのだと克也は経験上よく知っていた。今までに何度も世話になってきたそれが鳴らす警鐘に従わない理由などない。




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