合縁奇縁

□その9
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「さて、飛鳥井はジャッカル背負ってね。で、山下は自力で歩きなよ、どうせ図書室までそう遠くもない、そうだね柳?」

「あぁ。それに飛鳥井が鈴を鳴らしてあの男が去ってからそれなりに時間が経過するのに何も現れないということは、恐らく鈴の威力を警戒しているのだろう。今のうちに動くのが得策だ」

「先頭を柳、最後尾は俺が行く」


立海テニス部レギュラーにとって、三強の存在はとても大きい。
一人が欠けたことで全員が全員、少しだけ曲がった方向に暴走する程度にそれは確かな事実で、裏を返せば三人そろっているならばどんなことにも動じない。


それは往々にして試合の中で、時に学園生活。
舞台がオカルトな古い校舎に変わろうとも変わらない。


「任しとけ、ブン太ちょい手ェ貸せ」

「おぅ手伝ってやるよー、赤也が」

「俺ッスか!いい加減そのネタ古いッスよ先輩」


ジャッカルの言葉に安定の返しをする丸井に突っかかる赤也も安定すぎて、仁王は本当に動じない連中だと愉快になる。
普通はこんな異常事態、パニックになるし詳しく語ろうとしない飛鳥井に刺々しくなってもおかしくない。


さて、仮にそんなことになっていたら自分はどうしていたのだか。


意味の無い仮定をしていると、いつのまにか傍にいた相方が眼鏡の奥で鋭すぎる目をこちらに向けていた。
別に威嚇するつもりでも何でもなく単に目つきが悪すぎるだけのそれを隠すのに一役買っているその硝子は、反射する光の少ないこの場所では普段の役目を果たしていない。


「仁王君、またなにか妙なことを考えていましたね」


人は仁王を曲者だとか、油断ならないとか言うけれど。
そんな仁王をこれほど理解できる人間もなかなかではないかと思うのだ。


「別にやぎゅーの思うちょるほど、妙なことじゃないぜよ」


中高と苦楽を共にしてきたレギュラー達は好きだ、だがそれはテニスという存在がどうしても大きい。
飛鳥井は違う、転勤し通しで“友達作り”が面倒になってきた自分が久しぶりに自分から働きかけた友人、いや友人になりたいと思う人物。

その両者が争う時に、自分は保身に走るのか、感情に走るのかに興味が湧いた・・・それだけのことだ。

柳生は暫く黙ってこちらを見て、やがて大きなため息と共に背中を軽く叩いて歩き出す。


「いい加減に警戒を解いてもいいと思いますよ、仁王君」

「ん?」

「そうやってやたら自分を客観視しようとするのはやめたまえ、そういうことです」

「は?」


相方の言っている意味をうまく呑みこめずにアホの様に突っ立っていると、ついて来ない自分に気がついて柳生は首だけでこちらを振り向いた。


「私達はテニスが間に存在しなくても、君と変わらずに友人でありたいと願っているんですよ」

「・・・・・・・そーか」

「そうです」


いつまでも動かないことに業を煮やしたらしく、強制的に掴まれた右手が熱い。
準備万端に構えながらも自分達を待って幸村達がこちらを見ているのに気がつけば、心なしか顔も熱い。

実はここ最近の重苦しい空気に影響されてか、とうとう今年が友人達とつるむことのできる最後の年ということを実感してしまったせいか、妙にセンチメンタルな気分を抱き続けていたことなど鋭すぎる自分の友人達にはお見通しだったのかもしれない。


「面倒くさい奴じゃな」

「慣れましたよ」





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