合縁奇縁

□その4
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翌日。
今日こそはと意気込んでいた柊一は内心で顔を引きつらせていた。

「あれ、飛鳥井だっけ?おはよう」

「お、おはよう、幸村・・・・・・」


なんっでこんな朝早くに出くわすんだよっ!!


・・・・午前5時の、正門でのできごとである。




まぁ中学の頃に成し遂げられなかった三連覇の野望達成のため、そして今の仲間たちとの最後の大会という思い入れのために、
テニス部レギュラーたちは非常に熱心に青春していた。
イケメンホスト部だの、顔面偏差値だのと言われようがその実態は単なるテニス馬鹿である。

神の子と呼ばれる幸村も例外ではなく、ランニングをかねて登校してきたのだろう、ジャージ姿の彼はうっすら額に浮かんでいた汗をぬぐいつつ爽やかに笑っている。

それに返事を返す柊一の顔は必死に取り繕ってはいるものの、引きつっていた。


昨夜の克也の謎行動は結局解明されず、稲荷の行方と合わせて悶々と悩む羽目になり、実際のところ明け方にやっとうつらうつらした程度。

考えても仕方ないと割り切って、人も少ない朝のうちにダウジングを済ませてしまおうとおもい登校したのに出だしから躓いた。


「朝早いね、飛鳥井」

「それは幸村もだろ?熱心だな、テニス部」


朗らかに連れ立ち歩きながらも、やらかしてしまった失敗に柊一は頭を抱えたくなった。
病弱で半年も休んでた人間が早朝と言える時間―運動部の朝練より前の時間―に学校に来ているなんて変である、不自然すぎる。

つっこまれたらどうしようと考える柊一だったが、幸いにも幸村は何気なく柊一が返した言葉にうん、と力強く頷いて見せた。


「三年前の俺たちは、焦っていたし見失ってたからね。
・・・今年こそ、立海の三連覇に死角はない」


なにを、とは尋ねなかった。
前を見据える幸村は言葉の割に三年前のことを後悔しているようには見えなかったからだ。


柊一は知らぬことだが、勝ちにこだわり楽しむことを忘れていた自分のテニスを打ち破られたあの時の敗北は、あの時の言葉は、幸村にとってとても大切な記憶になっていた。

“テニスって、楽しいじゃん”

生意気な坊やのあの言葉。
楽しいテニスで、今度こそ彼と試合を。

王者や神の子ではない、一人のテニスプレイヤーとしての闘志を思い立たせてくれたあの三年前の全国大会は、悔いでも汚点でもないのだ。
負けたことは、悔しいのだけれど。



自分が任務に捧げていた時間を、青春に費やしていた幸村の静かだが熱い決意の言葉に、柊一は眩しそうに眼を細めた。

羨ましいとは、思わない。

こんな風に過ごす人たちの日常を守るために、御霊部は存在し、自分は闘ってきたのだと、改めて心に刻む。

「・・・・・見に行くよ」

「え?」

くるっと自分に顔を向けたテニス馬鹿に向かって、柊一は笑う。


「僕は去年の大会、見に行けなかったから。今年は見に行く、絶対」


じゃあな、練習頑張って



そんなことを言いながら昇降口へと歩いていく背中に、ゆるゆると幸村は口元を綻ばせた。
クラスが一緒だったことも、この間まで話したこともない。
だが。
自分の眼をしっかり見て微笑む彼の、誓うような言葉になんだか背筋が伸びる気がした。

「・・・ふふ、頑張らないといけないね」

あのまっすぐこちらに投げられた、エールに応えるために。
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