らんま1/2
□トリック・オア・トリート?
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季節は秋。
もう10月も終わりに近づこうとしている。
もうすぐハロウィンだ。
ハロウィンが日本でもそこそこ知れ渡るようになって、各所でイベントなんかも行われるようになって早数年。
ここ、天道道場も例外ではないようで、道場中が今やハロウィン一色に染まっていた。
ハロウィン当日にはまだ少々早いものの、今日は道場に通う子供達や父兄を招待したハロウィンパーティー開催日。
数日前から張り切って準備を進めているあかねを見つめながら、乱馬もせっせと手伝っていた。
既に結婚し、家を出たかすみやなびきも、今日ばかりは手伝いにやってきていた。
当然のように、かすみの旦那である東風も、なびきの旦那である久能も一緒である。
それぞれの子供達は、楽しそうに仮装の準備に余念がない。
「飾り付けはこんなもんでいっか?」
「そうだね。飾り付けはもう十分じゃないかな?」
「うむ。後は道場内に机を並べてゆけばよかろう」
道場の隅に立て掛けられた折り畳み式の長机を横目に、はぁっとため息ひとつ。
道場は広い。
その分、並べなくてはならない机も多い。
毎度のことながら、一筋縄でいかない量だ。
それを、たった3人でやろうというのだから、ため息も出よう。
門下生と行うこういったイベントは、他の門下生との交流を深く持って貰うのが目的である。
そのため、立食形式で行われることが多い。
もちろん今回も例外ではなく、立食形式となった。
乱馬はペシペシと頬を叩くと、よしっ!と、気合いを入れ、腕を捲りあげた。
「あかねー。テーブルクロスってどこにあんだ?」
台所でパーティー用の食事を準備しているはずのあかねに声をかける。
そこに立っていたのはかすみとなびき。
いつの間にやってきていたのか、シャンプーと右京の姿もあった。
が、何故かあかねの姿は見当たらない。
乱馬はキョロキョロと辺りを見回すが、やはりそこにあかねの姿はなかった。
「あ、乱ちゃん。道場の飾り付けはどうや?進んどるか?」
「乱馬。綺麗に飾りつけるよろし。なんかワクワクするね」
「え?あぁ、後は机にテーブルクロス敷いて、そこにちょっと飾り付けたら終わるんだけど…あかねは?」
「あかねなら、今子供達の所よ」
「みんなから仮装衣装の着付けをせがまれたのよ。乱馬くんも覗いてみたどうかしら?
女の子はあやねちゃんの部屋、男の子は翔馬くんと透馬くんの部屋で着替えてるはずよ」
ニコニコと笑うかすみに促されるまま、乱馬は二階へと向かう。
元々かすみの部屋だった一室は長女のあやねが、元々なびきの部屋だった一室は双子の長男次男の翔馬と透馬の部屋になっている。
そこに、かすみと東風の娘2人と、なびきと久能の息子1人娘1人。
シャンプーや右京が来ているのなら、シャンプーとムースの娘や、右京と小夏の息子2人も来ている可能性は十分にある。
それを、あかね1人で相手しているのであれば、相当大変な目にあっているのではないかと危惧しながら、乱馬は足早に部屋へと向かった。
コンコンと翔馬と透馬の部屋をノックする。
しかし、返事は待たずにドアを開け放つ。
中には野郎しかいないのがわかりきっているので、遠慮する必要もないとばかりに入っていく。
そこには目的の妻の姿はない。
代わりにいたのは…。
「…良牙?おめぇいつの間に」
「30分程前だ。あかりと大牙を連れて来たんだが、子供達の相手を頼まれてな」
「あかりゃんと大牙に連れて来られたんだろうが!で、何なんでぃその格好は?」
連れて来られたを強調する乱馬に、良牙は少しだけ頬を赤くして、それでも取り乱したり怒ったりすることはなかった。
良牙に似た、あかりと良牙の子供である大牙は、方向感覚に至っては母譲りらしい。
多少の方向感覚のズレは否めないが、それでも父親である良牙よりはずっとマシで、極度に方向を間違えることはない。
今は便利になったもので、良牙はGPS機能のついた携帯を持たされている。
それを元に、最近では大牙が良牙を迎えに行くくらいなのだ。
なかなか困った父親である。
「ハロウィンの仮装だ。見てわからないか?」
「仮装?かぼちゃのオバケ?」
「あぁ、響家は全員かぼちゃおばけで統一した」
「親父親父!俺達は海賊になったんだぜ!」
「金目のものを出せー!出さなきゃイタズラするぞ〜!」
「んなもんあるか!ハロウィンだろうが!?菓子を要求しやがれ!」
乱馬は暴れまくる息子2人を軽く小突き、大人しくさせる。
翔馬と透馬は痛がりながらも、へへへと笑っていた。
「おじさん!おじさんも仮装しぃや!」
「は?いや、俺はまだ飾り付けが終わってねぇから」
「マジで?じゃぁそれオレがやる!」
「あ、ずりぃ!俺も俺も!」
ドタバタと元気に走りながら、子供達がいっせいに走り出す。
楽しそうだし、道場には東風も久能もいることだしと、乱馬はそのまま部屋に残った。
そのままあやねの部屋に行こうと踵を返すと、ふいにガシッと肩を捕まれる。
掴んできたのは、当然良牙だ。
「なんでぃ?何か用か?」
「乱馬。逃げられると思うのか?」
「な、何だよ?」
「仮装だ!当然貴様にもして貰うぞ」
乱馬ははぁっとため息をつくと、観念したかのように用意された衣装に着替え始めた。