らんま1/2
□だって、好きなんだもん
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数ヶ月前、私と乱馬の仲はちょっとだけ進展した。
親が決めた許婚だったけど、自分達の意思で恋人になった。
小さな小さな進展。
でも、私からみたらそれは大きな進展。
恋人になったからって、すぐに何かが変わるなんて思ってない。
…キスは、した。
キスは、数え切れないくらいされたけど…。
でも、乱馬が急に優しくなるわけじゃないし、憎まれ口を叩かなくなるわけじゃなし、恋人同士の甘い時間みたいなのが訪れるわけじゃなし。
早い話し、いつも通りなのよね。
それに、なんだか最近いつも以上にシャンプー達が乱馬を追い掛けるようになった。
毎日毎日ご苦労さまよね。
今日だって、朝来て、お昼に来て、放課後まで現れたから、乱馬ってば掃除当番サボって窓から逃げて行ったのよ。
あ〜、もう!
今日は買い物に付き合ってくれるって約束したくせに、結局これなんだから!
乱馬がどこまで逃げたかなんてわかんないし、買い物する気分でもなくなった私はさっさと1人で帰ってきた。
着替えるために自分の部屋に戻ったけど、何だか着替えるのも億劫で、ベッドの上にゴロンと横になる。
全く、乱馬も乱馬よ!
なんでもっとハッキリしないのかしら。
いーーーーーーーーっつもそうよ!
優柔不断で!女の子の涙に弱くて!騙され易くて!
乱馬なんて、乱馬なんて〜…。
ら〜ん〜ま〜な〜ん〜て〜!!
………………。
振り上げそうになった手を、パタンとベッドに投げる。
弱々しい。
なんか、泣きそう…。
何で泣きそうかなんて、自分でもよくわかんない。
必死で堪えようと思うのに、視界が薄ら滲んできた。
誰もいない自分の部屋。
でも、誰にも見られたくなくて、腕で目元を覆う。
はぁ〜。
バカみたい。
恋人になる前より、恋人になった後の方がなんだか自分が弱くなった気がする。
こんなことでいちいち泣きそうになんてならなかったのに…。
「ら…まの、バカッ」
「誰がバカだ誰が?」
ガラガラと窓が開く音がする。
思わず窓を見上げたら、そこには乱馬が立っていた。
泣き顔なんて見られたくなくて、私はサッと壁際に体ごと顔を向ける。
「あの…さ」
「…何よ」
「怒って…」
「別に」
沈黙。
乱馬は何も言わない。
私も何も言わない。
ガラガラと窓の開閉する音がして、私はハッとしてベッドから起き上がった。
「乱っ…」
「なんでぃ?」
ふわっと温かい体温に包まれる。
力強くて、逞しくて、優しい腕の温もり。
何だか、凄くホッとする。
ホッとし過ぎて、益々涙出てきちゃうじゃない。
バカ…。
私は、乱馬の背中に腕を回して、ギュと抱きしめる。
「…泣いてる?」
「…てない」
「俺のせい?」
「な、てない…ってば」
「…ゴメン」
優しく髪を撫でる乱馬。
何よ、何なのよ、何で今日はそんなに優しいのよ。
調子狂うじゃないの。
「泣かせてゴメン」
「だから、泣いてなんてなっ…」
乱馬のことで泣いてたなんて思われたくなくて、虚勢を張って顔を上げたのに、次の瞬間には、乱馬にくちびるを塞がれてた。
思わず逃げそうになる私。
でも、乱馬が私の頭を固定してて、逃げるに逃げられなくて…。
私は乱馬の甘い舌を受け入れてた。
何度も何度も、角度を変えては私の舌を犯していく。
絡み合う舌がどっちのものかなんて、もうわからなくなるくらいに融けていく。
頑なな私の気持ちさえも、少しずつ解けていくキスに、酔いしれてしまう。
息も絶え絶えになった頃、やっと解放された。
お互いの顔は、窓から差し込む夕日よりも赤い気がする。
何だか恥ずかしくて、私は乱馬の胸に顔を埋めた。
また沈黙。
乱馬は何も言わない。
私も何も言わない。
でも、今の沈黙は何だか心地好くて。
乱馬を抱きしめる腕に、ギュッと力を入れたら、乱馬も力強く抱き返してくれた。
好きとか愛してるとか、そんな甘い言葉はなかなか言ってくれない恥ずかしがり屋な乱馬。
でも、今全身で好きだって言われてる気がして、何だかくすぐったい気持ちになる。
だってさ。
私ってばやっぱり乱馬のこと…。
好きなんだもん。
私達は、お姉ちゃんが呼びにくるまでずっとこうしてた。
幸せな気持ちを、胸に抱いたまま…。
END
君に触れたがる手へ