今日は何の日Project!

□subject:献血、噴水、漬け物
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「クソ親父! それは、俺んだ!」

「何を言うかバカ息子! この最後の漬け物はわしのだ!」



 昼食のおかずを巡り、いつものように乱馬と玄馬が争っている。


 今日の昼食は、炊き立てごはんと味噌汁。そして、漬け物のみ。


 そして、漬け物の最後の1つは、今玄馬の箸が掴んでいる。


 ごはん茶碗片手に、漬け物を奪おうとしている乱馬だが、玄馬に軽くあしらわれていた。


 最後の漬け物は、とうとう玄馬の胃の中へと納められる。



「ああああぁぁぁぁぁ!!! 俺の漬け物!」

「えぇい! 修行が足らんぞ乱馬!」

「てめぇの食い意地が人一倍張ってるだけだろうが!」



 乱馬は、得意げに笑う玄馬に水をぶっかけたうえで思いっきり蹴り飛ばす。


 玄馬はパンダにその姿を変え、遙か彼方へと飛んでいった。



「ったく、あのクソ親父が!」

「食い意地なら、あんたも十分人一倍なんじゃないの?」



 天道家の食卓で、ごはんと味噌汁を食べ終わったあかねが、呆れたように声をかけてくる。

 乱馬は当然のようにその隣に腰を落ち着けると、持っていたごはん茶碗に残っていた米を平らげた。



「おかわり! 味噌汁も!」

「あら、乱馬。もう残ってないわよ」



 のどかが、空になった炊飯器の中を乱馬に見せる。

 味噌汁が入っていた鍋も、かすみが申し訳なさそうに見せていた。



「まだ3杯も食ってねぇのに」

「それだけ食べれば十分よ」

「ごめんなさいね、乱馬くん。夕飯まで少し我慢してね」

「食材を買いに行く余裕がなかったんですもの。仕方ないわ。夕飯はもっとちゃんとしたもの準備しますから」



 のどかにたしなまれ、乱馬もそれ以上は何も言えないようだ。



「私、タダでお菓子やジュース飲み放題食べ放題の場所、知ってるわよ?」

「何ぃ!? どこだそれ!?」

「500円」



 ニコヤカに微笑むなびきが、さも当然と言わんばかりに片手を差し出す。


 当然、それは情報料を差し出せと言っているのだ。



「高い! 200円!」

「450円!」

「250円!」

「400円!」

「300円!」

「400円!」

「350円!」

「400円!」



 それ以上まかることはないと判断した乱馬は、渋々財布から400円を取り出す。


 400円あればそれなりの弁当が買えると思うのだが、ジュースやお菓子の類とはいえ、タダで飲み放題食べ放題という響きに負けたようだ。


 実質情報料として400円掛かっているのだが、乱馬はそんなことにはとんと気づいていない。


 あかねは、呆れたと言わんばかりに頭を抱えている。


 なびきは、400円を受け取りご満悦である。



「いつもの公園に、今日限定でオープンしてるはずよ。男も女も関係なく、たくさん人が集まってるんじゃないかしら?」






「くっそー。なびきの奴に騙された」

「何言ってんのよ。それだけの量貰っておいて」

「だってよぉ」



 乱馬はあかねを誘って、なびきの情報通りに公園へと足を運んできていた。


 お目当てを見つけた乱馬は喜び勇んで走っていったが、あかねとともに白いボックスカーに乗せられたかと思うと、中にいた白衣のおばさんにたっぷりと血を採られたのである。


 早い話が、それは献血カーだったのだ。


 確かに、ジュースもお菓子もタダで貰えたのだが、それは血と交換。


 乱馬は献血カーに乗せられる前と後ではなんだか少しげっそりしているようにも見える。


 まぁ、見えるだけだが。



「たまにはいいんじゃないの? あんた、血の気多いんだし。少しは血が足りなくて困ってる人に分けてあげたら」

「血を抜かれた後、ちょっとクラッとくるくらい抜かれてもかよ」

「大げさね〜。そんなに抜かれてないわよ」



 噴水の見えるベンチに座って、戦利品のジュースを飲みながらふてくされている。


 その隣には、とても1人分とは思えないほどの量のジュースやお菓子が山のように積まれていた。


 献血スタッフにもいい迷惑だ。


 乱馬は、飲み終わったジュースを近くのゴミ箱へ投げる。


 それはキレイな弧を描き、見事ゴミ箱へ命中した。


 あかねもジュースを1つとって飲み始めた。


 8月も半ば。


 日陰にいても、汗が噴き出すほどに暑い。



「あああぁぁぁ!」



 一口飲んだところで、隣の乱馬が喚き出す。


 何事かと振り返ると、乱馬がぶすっとした顔をしていた。



「な、何よ。びっくりするじゃないの」

「それ、俺が飲もうと思ってたのに」

「そんなこと?」



 呆れてものも言えない。


 そんなことでいちいち騒がないで欲しい。



「へへっ。一口貰い」

「え?」



 乱馬はあかねの手からジュースを奪うと、ごくんと一口飲み干して、あかねに返す。


 あかねはそれを受け取ったものの、どうしていいかわからなかった。


 顔が赤くなるのを止められない。


 不振に思ったのか、乱馬が覗き込むようにしてあかねを見た。



「どした? 顔赤ぇぞ? 熱でもあんのか?」

「ち、ちがっ。違うわよ!」

「あぁ? じゃぁ何なんだ?」

「バッ…だって…。その」

「何だよ?」

「………ス…だなって」

「んぁ?」

「だから、その。か、間接…キス…だなって」

「バッ…バババババッ…バカ言ってんじゃねぇよ」



 自分が何をしたのかようやっと自覚したのか、乱馬も顔が赤くなっていく。


 しばらく沈黙が続く。


 なんだかわざとらしい咳払いをしながら、乱馬があかねの肩に腕を回した。


 あかねも、そっと乱馬の肩に頭をのせる。


 初々しいカップルのような、そんな光景。


 きっと、隣にある山盛りのお菓子やジュースさえなければ、もう少し様になったであろう。


 でも、そんなことは2人には関係のないことだ。


 あかねがそっと視線をあげる。


 乱馬もそれに気づいたのか、視線をあかねに向けた。


 そっと閉じられたあかねの目。


 吸い寄せられるように近づいた乱馬の唇が、あかねのそれと重なった。


 ただ触れるだけの、優しいキス。


 それでも、今の2人にはそれで十分だった。


 唇が離れ、2人の視線が絡み合う。


 お互いになんだか照れくさくて、すぐに視線を外してしまう。


 それでも、肩を抱いた腕は離れない。



「あの…どっか寄ってく?」

「…うん」



 それは、乱馬なりのデートの誘い。


 乱馬は着ていた上着を脱いで、その中に戦利品を包み込む。


 片手でそれを持つと、もう片方の手をそっと差し出した。


 あかねはその手をきゅっと掴む。


 どこへ行こうかなんて会話も弾ませながら、2人は公園を後にした。



END


8月21日 献血記念日、噴水の日、漬物の日
誕生花:きんみずひき 花言葉:感謝



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