「……眠いわ……」

昼過ぎまで眠っていたジェネルは絶不調。少しふらつく足取りで支えようか迷っているペティの横を歩く。

「本当に大丈夫ですか?」

とても心配そうにしているペティに無理に笑顔を作って失敗する。するとペティとは反対側に居た子分達が廊下の壁に張り付いた。

「おおお親分が気味悪く笑った」

「わっ笑った……」

「あんた達ね……」

苛立たし気に二人を睨みつけると、二人はお互いを抱きしめ合って震え出す。

「……何やってんだか……」

馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに溜息を吐いて視線をそらすと、ジェネルの元にジェミニが駆け寄ってきた。

「親分、不安?」

とても心配そうにかけられた言葉と不安に揺れる瞳に、ジェネルは内心しまったと思いながらジェミニの視線の高さを合わせると、優しく抱きしめた。

「親びぅっひゃひゃひゃひゃぴゃ」

いきなり廊下に響いた叫びにも似た笑い声。

「あんた達、よくも気味悪いなんて言ったわね!そんな悪ガキはこうよ!」

「くぴゃひゃひゃひゃ」

「ぎゃー親分!ジェミニを離せー!!」

くすぐられ笑い続けるジェミニを助けるべくトゥインがジェネルにつかみ掛かる。

「そんな攻撃であたしが倒せるわけないでしょ!二人纏めてこうよ!」

悪戯をするような表情で子分達を抱きしめ、脇腹をくすぐる。

「うひゃひゃひゃっ」

「くぴゃひゃひゃっ」

必死にもがく二人を少し気分の晴れたジェネルは解放した。すると力尽きたと言わんばかりに子分達は上質な絨毯に両手をつく。

「さて、気分も晴れたしさっさとご飯食べて次の街の情報を拾いに行くわよ」

そう言いながら両手を叩くと、まだ立ち直っていない子分達は力無く絨毯に突っ伏した。

「……復活にはもう少し時間がかかりそうね……ペティ、今日はケニー来るだろうし、もしご飯が終わるまでに来なかったら二人と一緒に屋敷に居てあげてくれるかしら?」

「えっ?」

いつもなら連れていってくれるジェネルの初めての行動に、ペティは戸惑う。

「あっあの、私達はお邪魔ですか?」

とても悲しそうな表情に、再びしまったと髪を掻きむしる。そしてまだ復活を遂げていない二人を確認してからペティだけを近くの部屋に連れ込んだ。扉を閉めて外の子分達の気配が動いていないのを確認すると、ジェネルは口を開く。

「ごめんペティ。邪魔なんじゃなくて少し危険なのよ」

ジェネルの言葉にペティは可愛らしく首を傾げる。

「実は昨日の仕事の後、ずっと視線を感じてるの。人の気配はないのに視線だけが―――」

「おばっ―――」

「その名前を出さないでっ!」

ペティの言葉を片手で口を塞ぐことで制す。その手が微かに震えていることに気づいたペティは愛らしく笑った。その笑顔につられて苦く笑うと、ペティは口に当てられた手を優しく両手でとる。

「相手が誰であれ私達がジェネルさんを守ります!」

力一杯ジェネルの手を握り、そう意気込む。しかしジェネルの苦笑は変化を見せなかった。

「ペティはそうでもあの子達はそうじゃないからね……とにかく、ペティにはあの子達の足止めをお願いしたいの。視線の正体が人ならあたしが守る自信はあるわ。だけど違ったら―――」

みるみるジェネルの顔色が青くなる。

「もしかしてジェネルさん、おばけ苦手ですか?」

「……お願い、その名前は二度と出さないで……」

力無くうなだれるジェネルにペティは慌てて自分の口を塞ぐ。

「すみません……夜のお仕事なのであまり気にしないのかと思ってました」

「仕事の時は割り切れるのよ……でも普段は全然ダメなの……」

腰が抜けたかのように絨毯の敷かれた床に座り込むと、ペティは慌てて駆け寄った。

「こんな姿、トゥイン達には見せられないからペティ、お願い。あの子達の足止めをしておいてっ!」

必死な様子のジェネルにペティは優しく笑うと、ジェネルを抱きしめる。

「解りました、今日は私がトゥインさん達を足止めします。正体が判ったらまた、連れていってくださいね」

「うん、約束する……」

回される腕に手をかけて、静かに目を閉じる。その瞬間、けたたましい音と共に扉が開かれた。

『ふっかーつ!!』

「……あんた達、もう少し空気読んで……」

「あー親分、ペティにぎゅってしてもらってる!ずるい!おいらも!」

「あたいも!」

ジェネルの言葉は綺麗に無視され、子分達は二人に駆け寄った。そしてジェネルの背中からペティに向かって短い腕を伸ばす。

「なんであたしを挟むのよ」

ジェネルが呟くと、二人の抱きつく力が強くなる。

「親分、潰れろー」

「仕返し、潰れてー」

「さっきの仕返し?!小癪な!」

そう言って後ろに手を回して子分達の脇腹をくすぐると再び二人は撃沈した。

「まったく、油断も隙もあったもんじゃないわね」

ジェネルはペティの腕から抜け出すと、さっきまでのしおらしい様子は微塵もなく立ち上がる。それを見てペティは楽しそうに笑った。

「さぁ、馬鹿なことしてないで行くわよ!あんた達は今日は屋敷で謹慎よ」

『えー』

「一日、反省してなさい!親分に盾突こうなんて百万年早いわよ!」

「おうぼうだー」

「おうぼうー」

「それが社会の掟よ」

そう言ってまだまだ続く不満の声を聞き流しながらジェネルは広間に向かう。その後ろを不満の声をあげる子分達と微笑ましそうに笑うペティが続いた。




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