「どう言うこと?」
呆然と呟いて廊下を振り返る。意気込んだ後の廊下にはなんのからくりもなかった。
『あにぃ、金盥ふらんかったぁ……』
「……香代が用意していたからくりは綺麗に避けられましたから」
『あの男ならかかってくれたやろうにぃ……』
「……あの男専用だったようです……」
「そんなピンポイントな嫌がらせするつもりだったのね……」
呆れたように息を吐いていると、志助が部屋の扉を開く。
「さぁ、あの壁に飾られている金細工を盗んで頂くまでが勝負です。僕らは先に屋敷の外に居ますので」
そう言ってまだふて腐れている香代の手を引いて部屋の中央で止まった。そして思いっきり足を踏み鳴らす。すると大きな音と共に彼らが立っていた床が下がって行った。
「えっ何?あたしは置いて行かれたわけ?まぁ良いけど……とにかくあれを持って外に出れば良いわけね?」
頭をかいて一歩踏み出せば、空を裂く音。咄嗟に前に転げれば、立て続けに空を裂く音が聞こえてきた。襲って来る刃を軽く避けながら、金細工の下にたどり着く。すると音が止んだ。
「ここまではこないみたいね」
大きく息を吐いて、立ち上がると躊躇いなく金細工に手を伸ばす。金細工を手にとると、再び大きな音が響く。次は屋敷全体が揺らぐような振動の後、扉と窓に木枠の格子がかかった。
「なっ何?」
慌てて脱出しようとした時、彼女の耳にカタカタと音が届いた。