広間で優雅にお茶を飲む男。その見慣れた光景に苛々した様子で扉の横にもたれて立つジェネル。暖炉の上にある時計は天を指していた。

「……音沙汰なくて嬉しかったんだけど?今頃変態公爵二号が何の用?」

「昼から不機嫌だな」

「昨日ケニーがトゥイン達に買ったカードゲームに付き合ってたからあまり寝てないのよ」

「あっそ?じゃあ、用事だけ済ませて帰るわ」

そう言ってテーブルに一冊の冊子を置く。

「何よそれ」

「からくり技術が描かれた本だ」

「どう言うこと?」

「ロビンがお前に渡してくれって。手紙も預かってるぜ?」

近づいてきたジェネルにレイン公爵は一枚の封筒が差し出す。

「変なこと書いてないでしょうね?」

「読んでみれば判るんじゃねぇの?」

「……開けて良いわよ」

あまりの警戒心にレイン公爵は埒外あかないと感じたのか封筒を開ける。中から一枚の便箋を取り出すと二つ折にされたそれを開いて音読し始める。

「相手は東洋人の志助と香代と言う二人の子どもです。東洋のからくりで名を馳せた弁吉の弟子で志助は弁吉の孫にあたり、香代は志助の妹弟子にあたります。一緒に渡す本は弁吉が書き残した入門書のようなもの。絵が多く文字列が解らなくとも読めると思います」

ジェネルはテーブルの上に置かれている冊子を手に取ると中を見はじめる。

「その本はすみませんが志助に返しておいてください。中に手紙を挟んでいるのでそれも一緒にお願いします。デュークの商人からだと伝えて頂ければ解ると思います」

パラパラとめくると、冊子の中ほどに一枚の封筒。一度手にとってから同じ場所に戻すと冊子を閉じた。

「最後に二つ。一つ目は貴女ならきっと大丈夫。二人を頼みます。二つ目は志助が一番危険です。気をつけてあげてください。ロビン」

「……志助が一番危険?むしろ香代の方が暴力的だったけど?」

「まぁ子どもだろうが裏表はあるもんだからな」

レイン公爵の言葉にジェネルは肩を竦めて見せる。

「解ったわ。あんたの賭けは絶対勝たせないから。そう伝えて」

「了解。じゃあな」

「もう帰るの?」

手紙をテーブルに置くと、立ち上がるレイン公爵にジェネルは驚いたように声をかけた。

「最近はバロン卿がロビンにお前達の近況を報告してるからな。淑女達に宜しく伝えといてくれ」

そう言って広間を出て行ってしまった。誰も居なくなった広間でジェネルは本を開いた。書かれている文字はジェネルには理解できないが描かれている絵を自分の頭に叩き込んでいく。ロックベルが紅茶をいれてくれたことにも気づかないままペティ達が起き出してくるまで静かな時が流れた。


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