「今日も楽勝ね」

空も夜の顔を晒す中、ジェネルは騒々しい屋敷の中に居た。無駄に柔らかい絨毯の上を歩きながら手にした本日の戦利品を見下ろす。細かな銀細工に小さな紅い宝石が付いたネックレス。この屋敷でジェネルの目に唯一止まったモノ。最近は持ち運びに適さない大きなモノは選ばなくなった。それはジェネルが屋敷の主に姿を見せ、囮になっている間にトゥインとジェミニが運ばなければならないからだ。その変わりとして選ぶのはあまり興味のなかった貴金属の類になる。ジェネルの目を引くのは大粒のダイヤ等の高価なモノよりもてをかけているように見える『銀細工』が目を引いた。

「……最近偏食が過ぎるかしら……」

大粒の宝石よりも価値が劣ると解っていても、何故か手をかけたと一目で判るモノを道楽貴族の下に置いておくことが、ジェネルのカンに障るのだ。もう一つ理由を思い出すと、ジェネルの気が急く。

「早く帰るとしますか……ペティも待ってるだろうし」

そう呟いて近くの窓を開け放った。庭では騒ぎを聞き付けて出てきた使用人達を鳥が突き回している。それを視界の端に留めながら、手にしていたモノを何の躊躇いもなく空に放った。それは月光を受けて煌めいた瞬間、黒い何かにさらわれて消える。それを見届けて小さく息を吐く。

「……あとはジェミニが打ち合わせ通りしてくれるはず」

少し肩の荷が降り、それと同時に込み上げて来る焦燥感。ジェネルの中にある子分達を巻き込んでいることの苛立ちと焦り。自らのスタンスは動物とコミュニケーションを取れる者が居て成り立っている。そのスタンスに疑問を持ち始めたのは最近。

「……これがあたしの貫く正義。その為なら……」

奥歯を噛み締めて、続けられなかった言葉を飲み込んで首を振った。

「あたしらしくない。帰って寝ましょ」

まるであほらしいと言わんばかりに吐き捨てて開け放った窓から飛び降りる。軽い音を立て、着地するが誰もジェネルを捕まえる所ではなかった。突き回してくる鳥達から必死に逃げ惑う。そんな様子を見ながらジェネルは悠々と庭を抜け、塀に軽々と飛び乗り、振り返ることなく屋敷を後にした。

「あにぃ、あれが義賊様かいなぁ?」

「そのようだねぇ」

塀の影からジェネルの背を見送る二つの影。

「ありゃぁ人間離れした身体能力やねぇ」

「そうだねぇ」

「おもしろなりそやねぇ」

「そうやねぇ」

とても楽しそうに笑うのは無邪気な少女の声。無関心に相槌を打つのは何の興味も持たない少年の声。その二人の口からは異国の音がしていた。


[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ