白石蔵ノ介

□カブトムシ
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゛放課後、一緒に帰らへん?″

始まりはこの一言から。



「栞先輩、なんでいるんッスか」

「お、財前くんだ」

四天宝寺男子テニス部。

天才2年である財前くんがいつの間にかあたしの隣に来ていた。

「んやー、蔵待ってるんだけども」

「あー部長ッスか。そろそろ来るんとちゃいますか」

わざとらしくあたしの頭をポンポンと叩く財前くん。

「嫌みでしょ」

「別に」

畜生・・・牛乳飲んでるのに・・・。

「財前、あんま栞のこと苛めんなや」

「へいへい。んじゃ部長も来たみたいですし、帰りますわ」

財前くんは欠伸をしながら帰って行った。

「待ったやろ?」

「ものすごく」

まぁ、テニスしてるときの蔵もカッコいいから別にいいんだけど。

「ごめんて。帰ろ?」

「・・・許す」

そう言うと、蔵は嬉しそうにあたしの手を握った。



「あ、俺ん家寄るか?家族おらんけど」

おおっと。なんてこった。

白石家の近くまで来て突然のお誘い。

「どーしよっかな」

いつもは友香里ちゃんがいたからなぁなんて。

「もうちょっと栞とおりたいんや」

「うむ・・・」

蔵のこのセリフにあたしは弱すぎる・・・!


「お邪魔しまーす・・・」

見慣れた蔵の部屋はいつも綺麗に整頓されている。

「ちょっと待っててや。飲み物持ってくんで」

「あ、ありがとう」

部屋にぽつんと1人残されたあたしは、とりあえず正座。

蔵の匂いがする・・・当たり前か。

優しくて安心する匂いで・・・好き。

何回も来てるはずなのに何故か緊張する。

お、落ち着け・・・蔵に押し倒されるなんてことないだろうから!

ていうかこんなこと考えてる時点であたしは変態か!

1人慌てふためいているとカタッと物音が聞こえた。

「・・・なんだろ?」

気になって音がしたほうを見ると机の上にある小さな虫籠。

虫籠の中にはカブトムシ。

虫全般大嫌いなあたし。

でもこの子は無償に可愛く見える。

「可愛いね。名前あるのかな?」

「カブリエル」

いきなり背後から声がして肩がビクッとなった。

そのまま後ろから抱きしめられる。

「可愛いやろ?カブリエル」

耳元で呟くように話す蔵に、胸が高鳴っている。

あたしの状況を見て楽しんでいるだろう蔵はやっと離れてくれた。



「カーブリエル!可愛いなぁほんと」

ジュースをちょびっと飲んだあたしは、カブリエルの元に行った。

「なぁ栞?せっかくなんやし、ちょっとラブラブせぇへん?」

「カブリエルー、ちょ、くすぐったいよ」

「・・・・あの」

「あ、ゼリー食べる?あげていいー?」

「うん・・・それで・・・」

「おいしい?・・・おぉ、喜んでるっぽい!」

「・・・」

カブリエルではしゃいでいたあたしの隣に来ると、蔵はひょいっとあたしを抱っこした。

「なっ!ちょちょちょ!!」

「あかん。カブリエル没収してまうで」

「ごめん、ごめんて!降ろして!」

「ダメ」

暴れるあたしなんか気にもせず、そのままベットに乗った。

「お仕置きされたいん?自分」

「ひぇっ・・・ご、ごめんちゃい」

「許さへんよ?」

不敵に笑った蔵は、そのままあたしと唇を重ねる。

重みに耐えられないあたしは、少しずつベットに押し倒されかけている。

「んっ・・・」

だんだん息が苦しくなってきたあたしは蔵を押し返そうとする。

それをさせない蔵は、一瞬唇を離して再び重ねる。

「はっ・・・ん」

離したときに酸素を吸い込もうとしたがすぐに塞がれたために栞から甘い吐息が漏れる。

さっきよりも深く重ねた蔵は、栞の舌を絡めとる。

同時に指同士を絡めて逃がさない。

唇の隙間から唾液が伝う。

唇を何度も重ねていく内に、栞は体中の力が抜けていく。



やっと解放されたときには、栞は動くことすらできなかった。

「蔵、の・・・阿呆ぉ」

「そんな潤んだ目で見んなや。またする?」

「遠慮、します・・・」

伝った唾液を舐めると、蔵は抱きしめてきた。

「カブリエルより俺のことだけ見てて?」

「カブトムシにヤキモチとか・・・」

全く、困った彼氏くんだ・・・。

「嫌?」

「そんな蔵も好き」

暫く見つめあって、軽いキスをする。

・・・これからはカブリエルと遊ぶのは15分にしよう、うん。

「愛してるで・・・」

そう言ってあたしの鎖骨に赤い華を咲かせると、あたしたちはどちらからともなく瞼を閉じた。





−数分後−

『ガチャッ』

「くーちゃん、しーちゃん。ご飯・・・」

「すぅ・・・」

「お母さん!くーちゃんがしーちゃんにとうとう手出したで!!」

それから数分間の尋問をあたしたちは受けましたとさ。



Fin.

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