白石蔵ノ介

□君だけを
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「ほんま謙也さんってヘタレっすわ」

「なんやと財前!もういっぺん言うてみぃ!」

「だから、ヘタレっすね」

「生意気やぞお前!」

謙也と財前くんのコントを見ていると、隣に蔵がきた。

「どないした、栞」

「んー?なんでもなーい」

くるっと踵を返すとスコートがひらりと揺れた。

「栞!スコートやからって安心したらあかん」

「蔵ってお父さんみたいなこと言うんだねー」

「心配しとるんやで」

「大丈夫だよ。中はショーパンだもん」

「そんなん言うたって・・・」

あたしは蔵のこういうところが好きだったりする。

蔵のこと大好きなのにこれ以上の関係は望まない。

・・・蔵って人気高いんだもん。

「ぜんざいくん、遊ぼー」

「・・・財前っすわ」

「・・・ごめん。ほんと悪気ない」

「ええ加減覚えたってください」

「次は気をつけるね!ぜんざいくん!」

「・・・完璧わざとっすね」

そんなやりとりをしていると、あの時間がきてしまった。

「キャー!白石くんこっち向いてー!」

「忍足くんかっこいいー!」

「財前くーん!!」

・・・ギャラリーが一段と多いな、今日は。

そう、女子のギャラリータイム。(小春命名)

「うるさいっすね、ほんまに」

「ちょ、ぜ・・・財前くん!」

「ほんまにええ加減にしてほしいで」

「謙也までそんなこと言っちゃだめでしょ!」

「・・・はぁ」

「蔵、溜め息ついちゃ幸せ逃げちゃうよ!」

四天宝寺テニス部は女子からの人気が高い。
特に蔵、謙也、財前くんの3人が。

マネージャーであるあたしは結構言われてたりする。

「あの子マネージャーでしょー?」

「ちょっと可愛いからって白石くんの傍いすぎじゃない?」

「財前くんの傍にいるのよ!」

「なに言ってんのあんた!あの子忍足くんの傍にいっつもいんのよ!」

・・・だんだん言い合いの路線が外れてますけど。

「はぁ・・・」

たった1人しかマネージャーがいないなんて・・・反感買うのは当たり前だよねー。

「ね、蔵?なんでマネージャーあたしだけ勧誘したの」

「決まっとるやろ。栞以外いらんからやで」

ここはときめくところなんだろうけど・・・。

内心すっごい複雑だったりする。

「栞は心配せんでええって。俺らがいてほしいのは栞なんやから」

心遣い感謝いたします、聖書白石。




部活も終わって、ギャラリーも帰っていった。

よくあんなにキャーキャー言えるな。

「栞?帰るで」

家が隣同士であるあたしと蔵はいつも一緒に帰っていた。(蔵曰く、女の子が夜道を1人で歩いたらあかん)

夜道ってほど暗くもないんだけど。

「うん、そうだね」

部室に残っている皆にバイバイして帰る。

「なぁ、栞」

「なーに?」

「栞、好きなやつおったりするんか?」

「・・・はい?」

いきなりなにかと思えば・・・。

「は・・・ははは。いないよ、いない」

言えるわけないじゃないか、蔵のことが好きだなんて。

「そうか・・・」

「く、蔵はいないの?好きな子」

なんで一番聞きたくないこと聞いちゃうんだろう、あたしってば。

「え?あー・・・おるで」

ズキッと胸が痛んだ。

「だ、だよねー!蔵かっこいいもんね!」

ねぇ――あたし今ちゃんと笑えてる?


「その子な、ごっつ可愛くて明るくて優しくて。ほんまに完璧な子なんや。でもめっちゃ鈍感だったりするんや」

「そ、そうなんだー!あたし応援するよ!うん!」

心の奥に黒いドロドロのものが流れてくる。

「ほんま?応援してくれるん?」

ぱぁっと表情が明るくなった蔵。

「じゃあ教えたるわ」

そう言ってあたしの耳元に顔を近づけた。

「・・・君のことやで」

・・・あたしの思考回路が停止しかけた。

「な、なななな・・・」

みるみる顔が赤くなっていくあたし。

「応援してくれへんでええよ。俺はずっと自分のこと見てきてん」

にっこり微笑んだ蔵が可愛かった。

「応援せんでええから、俺の傍におってや。自惚れかもしれんけど、栞ってば俺のことばっか見とったよ」

・・・バレてたなんて。恥ずかしすぎる。

「あ、たし・・・」

あたしが俯くと同時に蔵が屈んで顔を覗き込む。

―――ずっと傍にいてくれた。

―――ずっと笑顔を向けてくれた。

「栞?・・・これからもずっと俺だけを見てて?」

「・・・はいっ」

ずっと君だけを見ていた―――。



(「栞に想い伝えられへんかった・・・」

「ほんと謙也さんヘタレっすわ」

「財前・・・今だけは許したる・・・」

不幸せな人がここに1人―――。)


Fin.

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