丸井ブン太

□喧嘩の原因
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小さなことだけど、あたしにとってはとても大きなこと。




今のあたしとブン太の間には一定の距離がある。

そして2人とも無言、無言、無言。

部室に向かうちょっとの道がすごく長く感じる。

その2人の少し後ろを歩いているのは、心配そうに見つめる仁王と柳生。

「一体どうしたというのでしょうか。丸井くんと桐島さん」

「知らんのう」

「仁王くん、なにか火種でも蒔いたのではないのですか?」

「そんなわけなかろう。俺にもよう分からん」

2人が言い合いをしている中、あたしはちらりとブン太を見る。

相変わらずガムを膨らませてポケットに手を突っ込みながら歩いている。

・・・ブン太の馬鹿。

「腹減ったな・・・」

「・・・」

ブン太からの視線を感じるがあたしは振り向かない。

「栞、なんか食いもんねぇ?」

「・・・」

あたしが怒ってるっていうのに食いもんかよ!

あたしよりもお腹のことのほうが心配なわけですか!

「おーい?」

「知らない!ブン太のバカバカカバー!!」

「か、カバ!?」

ブン太の近くに居たくなくて、あたしは部室まで走り出した。


「カバはねぇだろぃ・・・」

「ブン太、馬鹿じゃのう」

ポンッとブン太の肩に手を置いて一言言うと、仁王は栞のあとを追いかけていく。

「丸井くん、このことは幸村くんに報告しますが」

「はぁ!?」

「早急に仲直りしたほうがいいでしょうね」

そして柳生も部室へと向かった。




部活の時間でも、いつもならドリンクやタオルをみんなに配った後はブン太と楽しそうに話す栞。

だが今日の栞はブン太の分のドリンクとタオルをジャッカルに渡し、仁王と喋っていた。

「栞は本当に可愛いのう」

「あ、馬鹿にしてるでしょ!」

「褒めとるんじゃよ?」

途端に仁王はニヤリと口角を微かに上げ、カマをかけた。

「栞、俺と付き合わんか?」

仁王は、ちらりと目を向けると、ピクリと大きく反応をみせたブン太を見てクックッと笑った。

「んー・・・考えとこうかな!」

栞の爆弾発言が投下。

ブン太は勢いよく栞と仁王のほうを見る。

「いい返事、待っとるぜよ」

仁王は明らかに楽しんでいることを柳生は呆れた顔で察していた。




仁王の誘いに乗ってみたけど、ブン太はあれからも態度を然程変えなかった。

「ブン太なんか・・・もう知らない」

微かに潤んだ瞳を悟られないよう、あたしは記録を取ることに専念した。

「・・・栞先輩!」

「んー?赤也どしたの?」

ラケットを持ちながら赤也は言った。

「丸井先輩、めちゃくちゃブラックオーラ放ってるッスよ」

「へ?」

ブン太とジャッカルくんのいるコートを見ると、ブン太がジャッカルくんに八つ当たりしているように見える。

「お、おい!やめ、いたたたた!」

というジャッカルくんの悲痛な声が聞こえる。

どうやらボールをバンバンぶつけられているようだった。

「ジャッカル先輩が可哀想ッス」

・・・ごめんね、ジャッカルくん。




部活が終了し、部室で起きている現状。

・・・何故こうなったんでしょうかね。

あたしの目の前にはブン太。

ブン太の目の前にはあたし。

つまりは1対1の睨めっこ。

他のレギュラー陣は、片隅であたしたちを見守っている。

何かあれば真田くんが鉄拳を与えるというシステムらしい。

「・・・」

「・・・」

「あの・・・部長、あれ大丈夫なんスか?」

「ふふ、どうだろうね?」

明らかに幸村も楽しんでいるようである。



無言の睨み合いが始まってから約2分程経過しただろうか。

「もういいんじゃないか・・・?」

絆創膏を何箇所か貼ったジャッカルくん。

小さな擦り傷があったからあたしが貼ってあげた。

「見ているこちらが辛い、とお前は言う。だが今日中に仲直りしてもらわなければジャッカル、また怪我するぞ」

「・・・そう、だな」

まもなく延長戦。5分経過。

無言が飽きてきたのはあたしのほうだった。

「ブン太の馬鹿」

「・・・おう」

「ブン太なんか嫌い」

「・・・ごめん」

「ブン太禿げちゃえ」

「・・・う」

「ブン太なんかクジラに食べられちゃえばいいんだ」

「・・・クジラ」

ふんっと顔を逸らしてから、視線だけ戻す。

俯いたブン太の表情は分からないけど、目とか潤ませてるのだろうか。

「栞にあれだけ言われたら、ブン太は精神ダメージが大きいぜよ」

「桐島さんに溺愛の丸井くんならばそうでしょうね」

他のみんなは放って置いて・・・。

「あの・・・丸井せんぱ・・・ひっ」

赤也がブン太に話しかけると、ブン太の鋭い睨みが赤也へと向けられる。

ちょっと言い過ぎちゃったかな・・・。

椅子から立ち上がり、ブン太の傍へと寄る。

「・・・ごめんね、ブン太」

「・・・」

「嫌いなんて嘘だからね。禿げたりもしないからね。クジラもブン太のこと食べないからね」

「・・・おう」

「ちょ、そこでイチャイチャするのおかしくないッスか!?」

「とにもかくにも、一件落着のようだね。なぁ、真田?」

「このくらいで喧嘩とは・・・たるんどる!」

「丸く納まって良かったな」

「そうじゃのう。俺は少し残念ナリ」

「仁王くん、諦めてはどうですか?」

「そっくりそのまま柳生に返すぜよ」

「八つ当たりされずに済みそうだ・・・」




「ところで、なんで丸井先輩と栞先輩って喧嘩してたんッスか?」

「たしかに、今までお前たちが喧嘩しているところなど見たことがないが・・・」

あたしがブン太と無言の睨み合いになった原因。

それは・・・。

「だって最近、ブン太が好きって言ってくれないんだもん」

「「へ・・・?」」

「柳生、やっぱり俺は諦めんぜよ」

「おや、全く同意見ですよ仁王くん」

「栞らしくて可愛いね」

「はっ破廉恥な!たるんどる!」

「弦一郎、落ち着け」

赤也とジャッカルくんは唖然。

他は色々話してるみたいだけど無視しよう・・・。

「・・・栞」

「なに?」

椅子から立ち上がって、あたしの手を握り締めたブン太。

「好きだぜぃ」

「1週間ぶりだね」

握り返してお互い笑う。

「帰ろう」

「そうだな。んじゃ行くか」

他のレギュラー陣を放置してあたしたちは帰った。



次の日

あたしたちがまたいちゃらぶし始めて、クラスのみんなが一安心。

クラス公認カップルの亀裂は治まりました。

「栞、好き」

「あたしもー!」




Fin.

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