丸井ブン太

□風邪
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彼はすごくお馬鹿さんだとあたしは思う。



PM.9:30


「げほげほっ・・・」

『ピピピッ』

ブン太の脇に挟まれている体温計を取る。

「・・・38度5分」

「げほげほっ!」

この子は馬鹿だ。大馬鹿だ。

事件が起きたのは今日の夕方―――。


部活が朝からあるブン太に早朝メールで知らせたはずだった。

『今日の夕方の降水量は90%以上だから傘忘れちゃダメだよ』

なのにこのお馬鹿さんは、面倒だからという理由で持っていかなかったらしい。

ブン太の両親と弟くんたちは只今旅行中(ブン太は部活があるから行かなかったらしい)だから心配して言ってあげたのに。

もちろん夕方からは土砂降りで、夕飯を作るためにブン太の家で待機していたあたしはびっくりした。

ずぶ濡れでブン太帰宅。
そしてそのままぶっ倒れ。

髪を拭いてあげたり着替えさせたりをしてたら、ブン太の体温が熱いことに気付いた。

このお馬鹿ブン太は風邪をひいちゃったらしい。

―――そして今に至る。


「ブン太、薬飲もう」

ブン太が熱を出してるって気づいたあたしは、急いで薬局に行って薬を買ったり。
冷えピタ買ったり。
スポーツドリンクを買ったり。
おかゆの材料買ったり。

ほんと疲れた・・・土曜日だというのに。

「口移し・・・?」

今すぐ殴っていいかな・・・。

「自分で飲めるでしょ。あ、おかゆ食べる?」

おずおずと薬を飲んだブン太。

「・・・いらない」

「食べなきゃダメだよ。治らないよ?」

「薬飲んだから大丈夫だろぃ・・・」

どんだけ馬鹿なんだ、この子。

熱で顔がほんのり赤くて、前髪がちょんまげになってる(あたしが縛ってあげた)姿を見て可愛いって思っちゃうあたしも、熱測ったほうがいいだろうか。

「・・・お前、帰んねぇの・・・?」

ちらりとあたしに視線を移すブン太。

「高熱出してる彼氏くんを置いて帰れません。家族には泊まるって連絡しといたから大丈夫」

「・・・栞」

「なに」

「・・・好き」

風邪をひくとこうも弱るのか。

・・・可愛いから許す。

「おかゆ食べなさい」

「・・・はい」

素直でよろしいと頭を撫でたら嫌そうな顔されちゃった。

「げほっ・・・げほげほっ」

風邪というのは恐ろしいもので。

けほけほっから始まって、げほげほっとちょっと辛くなって、最終的にはげほぉっという悲惨なものになる。

「さてと、冷えピタ新しいの持ってくるね」

「・・・俺も行く」

あたしの手をきゅっと軽く掴むブン太。

病気にかかると寂しくなるっていうのは本当らしい。

「動いちゃダメだってば」

「・・・じゃあ行かないでくれよぃ」

目を潤ませるブン太はほんと可愛い。
あとで写メ撮っておこう。

「1分以内で戻ってくるから!」

「ほんとに・・・?」

「約束する」

そう言うとぱっと手を放してくれた。

そしてあたしは猛ダッシュで階段を駆け下りた。
冷えピタを持って急いでブン太の部屋へ戻る。

「つめたっ・・・」

冷えピタを取り替えるとブン太は笑った。

「なに笑ってんの、馬鹿ブン太」

「栞ってばいつもより優しいな」

「いつも優しいでしょー」

ブン太の頬を抓ると、眠いと言い出した。

コロコロと話題を替えるやつだな・・・。

「・・・栞、一緒に寝よう」

毛布をあげてぽんぽんと布団を叩く。

「風邪うつるでしょ」

「馬鹿は風邪ひかな―「え?なに?なんなの?」

「・・・俺の菌なら大丈夫だろぃ・・・」

仕方ないなぁと渋々布団に潜ると、ブン太が抱きついてきた。

「甘い匂いする・・・」

「あっつい・・・暑いですブン太くん・・・」

そう言うと余計抱きついてきた。

「栞ってふかふかしてるから好き」

「褒めてないでしょ」

「なぁ、もしや太った?」

「うん、死にたいの?」

たしかに最近太ってきたかも。ブン太のケーキバイキングに付き合ったら。

痩せよう、ケーキはお預けしよう。

「栞・・・」

あたしのおでこにちゅっというむず痒い音が響く。

「愛してる・・・」

「うん、あたしも?」

「なんで疑問形なんだよぃ・・・」

しょんぼりするブン太の頬にあたしはキスを落とした。

「あたしも好き。愛してる」

「俺のがもっと好きだし・・・」

どうでもいいけど、本当暑い・・・。



後日、ブン太の風邪は無事完治。

「げほげほっ・・・」

「栞、何欲しい?ガムか?ケーキか?」

「ふざけてるでしょ・・・げほっ」

ブン太の風邪があたしにうつっちゃった。

「俺帰ったほうがいい?」

「・・・行っちゃ、やだ」

そう言うと満足そうにあたしの頬にキスを落としたブン太だった。



Fin.

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