丸井ブン太
□嫉妬
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立海大附属テニス部マネージャーであるあたしは、部誌を書いていた。
それはいつものことなんだけど・・・。
ちらりと横を見て、心の中で溜め息をつく。
彼氏くんである丸井ブン太は珍しくキレている。
そりゃあもう、分かりやすいほどに。
机に足を乗っけて、ポケットに手を突っ込みながらガムを膨らませる姿はいかつい。
あの真田ですらびっくりしてたしね、怯えてた・・・かな。
幸村くんなんて楽しそうに笑ってたし。・・・よく分かんないや。
仁王だって「プリッ」っていう意味分からない言葉だけ残していくし。いつもなんだけど・・・。
優しい後輩だと思ってた赤也なんか「丸井先輩怖いっすね・・・。じゃ、あとは栞先輩に任せますんで!」とか言って帰っちゃった。
あとでわさび大量入りのお寿司あげようかな。
柳くんは「助けて。と、お前は言う。だが俺は助けない」っていう言葉の矢をあたしの心に突き刺してきた。
・・・柳生くんくらいは助けてくれてもいいじゃないか。ジェントルマンなんだし。
「栞さん、頑張ってくださいね」なんて言わないで助けておくれよ・・・。
そんな感じで皆、あたしを見捨てて帰っちゃった。
とりあえずあたしも、一刻も早く帰りたい。
「・・・あのさ、早くしてくんねぇ?」
言葉からでも分かるほど怒ってるブン太。
いつもはすごく優しいから余計怖かったりする。
「ごっごめん。急いで書いてるんだけど・・・まだかかりそうだし、先帰っても――」
「先に帰ってほしいんだ?」
地雷を踏んでしまったらしい・・・。
「え・・・いや、そういうわけじゃ・・・」
「もういいし」
そう言って勢いよく立ち上がり、椅子をしまうブン太。
「ちょ、待っ――」
言い終わる前に部室のドアが閉められた。
さっきまでいた場所にブン太の姿はなかった。
「・・・・」
とりあえず部誌書いちゃおう・・・。
しかし、だんだんと視界がぼやけていって上手く書けない。
本当は追いかけて謝りたい。
でも何について謝ればいいの?
あれかな。ブン太が楽しみにしてた甘あまビックパフェ食べちゃったことかな。
でもあれは、あたしがとっておいた期間限定のプレミアム濃厚プリンを食べちゃったブン太に対しての仕返しだもんね・・・。
――そんなわけないか。
「ひっ・・・ひっくっ・・・」
涙が止まってくれない・・・。
ここにずっといても仕方ないし、帰ろう・・・。
涙を拭って、部誌を届けてから正門まで向かう。
「・・・はぁ」
さっきから溜め息ばっかり・・・。
「溜め息ばっかりついてると、幸せ逃げちまうぜぃ?」
聞き慣れた声に顔を上げる。
「ってつかせてるのは俺だな」
甘党で優しくてかっこよくて――。
あたしの大好きな人―――。
「ブン太・・・」
正門で待っててくれたのはブン太だった。
あたしの傍までくると、ぎゅっと抱きしめてくる。
「わりぃ・・・俺が嫉妬してたから・・・」
「嫉妬・・・?」
「今日さ、お前ってば他の男に手握られてたろぃ?」
「・・・あ」
「それ見ちまってよぃ・・・なんで俺以外の男にってなっちまって・・・」
ちょっとしか身長は変わらないのに、腕とか力はやっぱり男の子。
手だってキレイなのに、しっかりしてる。
ブン太の背中に手をまわす。
「ごめんなさ、い・・・これからはブン太以外の男の子に触れないようにする・・・」
「おう・・・絶対な」
そのまま吸い寄せられるように唇を重ねた。
後日、わさびが大量に入ったお寿司を赤也にあげてみたら、泣かれちゃった。
(幸村くんたちにやると、あとが怖いので赤也だけ)
Fin.