丸井ブン太
□甘えたがり
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・・・なぜこんなことになっているのか早急に教えていただきたい。
とりあえず最初を思い出せ。
たしか今日は日曜日で今あたしは朝食を作っている。
ちらりとカレンダーを見れば日曜日。
ちらりとテレビを見れば朝のニュース中で左上には小さくAM.9:30と出ている。
そしてあたしは今キッチンにいるのだ。
うん、間違っていない。
あたしは一人暮らしで、一人分の朝食だけでいいはず。
しかし材料は二人分はある。一人でこんな量食べれるか。
たしか30分ほど前にインターホンが鳴って、出てみると目の前には赤髪でグリーンアップルの風船ガムを膨らませている男がいた。
同じ立海大附属の同級生で同じクラスである丸井ブン太だ。
「どうしたの?」
「遊びに来た」
早すぎやしませんか。
まだ起きたばかりなんですけど、あたし。
「え、部活は?」
文句を飲み込んで、とりあえず聞いてみる。
「今日は休みー。だから来たんだよぃ」
たしかにブン太がサボりなんてするはずない。
靴を脱いでズカズカ入っていくブン太を追いかける。
「あたしご飯作るところなんですけど」
「あ、俺の分もー!」
・・・なんて自己中な奴なんだ。
テレビをつけてソファでくつろいでいるブン太をほおってエプロンをつける。
一人分から二人分へと材料の量を変えて料理を作り始める。
その時リビングからごそごそと聞こえてきた。
たいして気にも留めず料理を続ける。
すると左横にいつの間にかブン太がいた。
しかも上半身が裸という非常事態だ。
ちらりと下を見れば、ちゃんとジーパンを穿いててくれた。
よかった、変態甘党じゃなくて・・・。
「・・・なに?」
とりあえず平静を装う。
「ん?別に何でもねーよ」
・・・とか言いつつ横からあたしに抱きつく甘党少年。
反対側の脇腹のところで手のロックまでかけている。
そうだ。それが今の現状だ。
あたしの心臓はバクバクと鳴っている。
甘党少年に抱きつかれて心臓バクバクしすぎて死亡なんて御免だ。
ていうかなんで抱きつかれているんだあたしは。
頼む。ジェントルマン柳生くん、今すぐ教えていただけないだろうか。
「ねぇ・・・ドキドキする?」
しなかったら病気でしょうよ。
あたしよりちょっと背が高いくせにわざわざ中腰になって上目遣いで聞かないでいただきたい。
そろそろ鼻血を噴射しそうだ。
鼻の奥が熱いし、鉄の匂いがほんのりしている。
鉄の匂いがしなければ鼻水だろうと無理にでも思えるのに。
ほんのりでも匂っちゃったらもうアウトだ。
「俺はドキドキしてる。お前に触れてると・・・すごく」
ちょっと顔を赤らめたブン太が可愛すぎだ。料理に集中できなくなる。
本当になんで上半身が裸なんだ。
あれか、襲われたいのか、あたしに。
少し先にあるリビングのソファに押し倒されたいのか。
それともまた少し先にあるあたしのベットに押し倒されたいのか。
・・・いや、落ち着けあたし。
とりあえず説得してみようじゃないか。
「ブン太?服着よう、服」
「・・・ダメ」
・・・いや着ようよ。あたしの鼻のために。
本当あたしの鼻が限界ですよ。噴射のカウントが迫ってるよ。
「ご飯いるでしょ?」
「うん、食べる」
「じゃあ服着よう」
「それはダメ」
・・・ダメだ。説得のせの字もない。
諦めよう。ブン太には何言ってもダメだ。
テニス部で鍛えてできたブン太の筋肉にあたしはノックアウトしかけてる。
鼻がもたない・・・かも。
とりあえず拭ってみる。うん、まだ大丈夫。
料理もできてきたし、頑張れあたしの鼻!
「ねぇ・・・栞?」
ブン太の形のいい唇があたしの耳元に近づいて―――。
「・・・好きだよぃ」
爆弾を投下してきやがった。
「ふ、ふーん」
平静を装ったけど、危うく包丁で指を切るとこだった。
心の中のあたしは既にキュン死にしている。
どうしよう。失血して死にそう。
この際もう噴射して楽になろうか。
せっかく作った料理は台無しになるが。
生殺しするならいっそ殺してほしい。
やっと料理ができた。
テーブルに料理を運んで、嫌だ嫌だと服を着ることを拒むブン太に無理やり服を着せた。
拗ねちゃったけど、料理を食べ始めたら機嫌直っちゃったし。
単純甘党ブン太でよかった。
「俺、栞を嫁にするって決めたんだ」
本日爆弾2つ目投下。
まだあたしたち中3なんですけど。
「付き合うときに決めた」
半年も前から決めてたのか。しかもあたしの意思は入ってないらしい。
まぁブン太のこと好きだけども。
「幸村くんと柳生に言ったら、早いなって言われた」
でしょうよ。
中3の男子のその発言はいくらなんでも早すぎですよ。
「ジャッカルにも言ったら、そうか、頑張れよって言われた」
なんてこった。
ジャッカルくんってばブン太の言うこと本気にしてないんじゃない?
それか実は本気にしてて、あたしを嫁にもらうと大変だぞって意味か。
・・・あとで聞きださなくては。
後者だったら幸村くんと真田に言いつけてやる。
「ところでなんで服脱いだの?」
とりあえず嫁の話は置いておこう。
これ以上プロポーズ?されたらせっかく正常の速さに戻った心臓がやばくなる。
パクパクと料理を口に含んだブン太が、料理を飲み込んで―――。
「最近、栞が冷たいって仁王と柳に言ったらそうしろって」
「・・・・・」
あとでその2人には説教が必要だな。
次の日、柳と仁王には正座で説教を食らわせた。
ジャッカルは・・・忘れた。
Fin.