忍足謙也

□そんなキミが
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なんなの、このひよこくんは。



「ねぇ、なんで来たの?」

コップの中の氷がカランと鳴る。

夏休み早々、幼馴染の謙也があたしの部屋に来ていた。

「なんとなくや」

「あたしさ、今から夏休みの課題やりたいんだけど」

「やったらええやん」

君の視線が痛いんですよ。集中できないんです。

「用がないんだったら帰ってよ。ていうか部活はどうしたの?」

「今日は部活休みなんや」

「だったら帰って勉強したら」

「お前最近冷たいで」

そんな嫌そうな顔されても困る。

「にしてもあっついなー」

エアコンは点いてるけど、設定温度があまり低くないからだろう。

「なら帰って自分の部屋でくつろげばいいでしょ」

「ほんま冷たいやっちゃなー。白石と喋ってるときと態度ちゃうやんか」

「白石は友達だもん」

あたしはカリカリとペンを走らせる。

「・・・俺は?」

「うざい人」

「なっ!?あえて幼馴染カテゴリーに入れろや!」

「うっさいわボケ!ちょっとあんた黙っとけや!」

はぁ・・・課題に集中できない。

「あんたほんと何しに来たの」

オレンジジュースの入ったコップを取って、ストローを銜える。

ひんやり冷たくておいしい。

「ちょっとな・・・」

謙也はいきなり大人しくなった。

「お前に言いたいことがあるっちゅー話や」

コップをテーブルに置くと、謙也がコップを手に取った。

さっきまであたしが銜えてたストローを謙也が銜える。

あ、よく考えたら間接キスじゃん。

「ふーん?なに?」

間接キスでときめくほど、あたしは乙女じゃなかった。

ペンを置き、指を組んで顎を置いた。

「お前、動じたりせぇへんのか?」

「なにが?」

「か・・・間接キス・・・しとんのに」

「生憎、そこまで乙女じゃないんでね」

小さい頃はいつもやってたことだし。

そう言うと謙也は、コトリとコップを置いた。

・・・こいつ、半分近くあったジュースを全部飲みやがった。

「・・・オレンジくれや」

ナチュラルにくつろぐのやめてくれないか。

「今持ってきてあげるから。ちょっと待ってて」

「おう・・・」

コップを持って1階まで下りた。

今日の謙也はちょっとおかしい・・・断じて頭ではなく様子が。

一体どうしたというのか。

あたしの分と謙也の分のコップを持っていく。

ドアを開けると、謙也がくるっと振り返った。

「すまんな、栞」

「別にいいけど・・・で?話ってなに?」

「・・・えっと・・・」

どうしよう、ちょっとイライラしてきちゃった。

「はっきり言いたいこと言わないと。そんなんだから財前くんにヘタレって言われるんだよ」

「・・・せやな」

意を決したのか、真っ直ぐにあたしを見る謙也。

「俺、お前のこと好きや」


「・・・・・は?」

今謙也何て言った?

あたしはてっきり、課題終わったら見せろとか言われるのかと・・・。

「だ、誰よりもお前のこと幸せにできる自信ある・・・と思うで」

そこでヘタレ出さなくていいと思う。

「せやから!俺じゃダメなんか・・・?」

いや、いやいや・・・ダメなんか?って言われましても。

あたしのどこに好きになる要素があったのか全然わからない。

「け、謙也?熱あんの?暑すぎておかしくなった?」

謙也のおでこに手を当てる。

「俺は本気やで」

真剣な瞳にあたしは息を呑んだ。

「あーっと・・・」

何て言えばいい。・・・言わなくちゃ。

――――何を?

あれ?あたし謙也のこと好きなの?

じゃあ何で冷たい態度とったの?・・・嫌いだから?

あかん、自分の気持ち分けわからへん。

とりあえず思い出せ。

あたしが謙也にだけ冷たい態度をとり始めたのはいつから?

――謙也が女の子に告白されてるのを見た時から。

そうだ、そのとき胸が痛くて。

その日からもやもやがとれなくて。

どうしていいのか分からなくて。

冷たい態度で隠してた。



「・・・あれ・・・」

なんで。なんで?

「ちょ、どないした!?俺が悪いんか!?」

「ちが、・・・」

あたしの目からは大粒の涙が流れていた。

「ふぇっ・・・」

「わー!泣くな泣くな!」

あたしの隣に来た謙也は指で涙を拭う。

「あかん!どないしたらええんか分からへん!」

あわあわと慌てだす謙也がちょっと可愛かった。

きゅっと謙也の服を掴む。

「・・・栞?」

「あ、たし・・・謙也のこと、好きかも」

「・・・」

黙ってしまった謙也をちらりと見る。

謙也の顔はほんのり赤く染まっている。

「ほんまか・・・?」

「え、う、うん・・・」

「ほんまか!」

勢いよく立ち上がると、謙也はあたしを抱き上げた。

「めっちゃ嬉しいで!」

「ちょ、ちょっと!!」

抱き上げたまま回る謙也にびっくりした。

力あるんだな、やっぱり。

「嘘とか許さへんで?」

「嘘じゃないし!」

「絶対離さへんよ」

「約束ね」

謙也はあたしにキスをした。

「あかん・・・めっちゃ恥ずいわ」

自分からしてきたくせに・・・。

「ヘタレ」

「うっさいわ!」

ヘタレなキミが好きだった。

ちょっとのことで顔を赤くして。

でも力強く抱きしめてくる。

そんなキミが―――今でも大好きなの。




「ずっと傍におれよ」

「謙也が離れていかなければね」

「そんなんあるわけないやろ」

あたしの髪をすく謙也にあたしはキスをする。

「不意打ちはないやろ・・・」

「けーんやー、好き」

「素直になりすぎとちゃうか」

そう言うキミは嬉しそうだったりする。




Fin.

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