覇道をゆく者
□永遠の虜囚2
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呂布の横した世話役の男に連れられ、夏侯惇は湯浴場に来ていた。背中を流そうとする男を制し、一人黙々と身体に湯を浴びた。少し熱めの湯は心地よく、心なしか夏侯惇は安堵した。これで昨日の残滓も洗い流せるなら…そう思い自分が女々しい考えでいることに気付き夏侯惇は冷めた笑いを漏らした。
新しい着物を与えられ、部屋に戻る。捕虜とはいえ待遇は手厚い。この部屋から出ることは出来ないが、拘束具の類は付けられておらず食事も定刻に運ばれてくる。
一度食事を拒否したら世話役の男が震えながら食べてもらわないと自分が罰せられると言う。夏侯惇はそれも哀れな話だと膳に手を付けた。仮に脱出出来るとなったときに体力はあった方が良い、そう思い直し夏侯惇は出されたものはきっちり食べることにした。
陽が落ちて、部屋に灯りがともる。夏侯惇は窓から外の森を眺め、脱出経路についてぼんやり考えていた。
不意に腰を抱かれ、そこまで近付かせたことを不覚に思いながら夏侯惇は後ろを振り返る。そこには不敵な笑みを浮かべた呂布の姿。
「呂布…‼」
夏侯惇は呂布を見上げ、睨み付けた。呂布はその鋭い眼光に怯む様子も見せず、夏侯惇を離しもしない。
「ここから逃げると思ってな」
「逃げはせぬ、離せ」
夏侯惇は呂布の力から抵抗も無駄と大人しくしている。しかし、目は呂布を射たままだ。
「そんなに見つめられるとおかしな気分になるぞ」
呂布はニヤニヤ笑っている。夏侯惇は舌打ちをして目を逸らす。それを隙と見たか呂布は夏侯惇の唇を塞いだ。
「うむ…っ‼」
呂布から逃れようと夏侯惇は身をよじる。しかし腰を強く抱かれ、身動き出来ない。呂布の舌が夏侯惇の口内を蹂躙する。夏侯惇はそれに耐え、呂布の着物の袖口を強く掴む。やっと解放され、夏侯惇は小さく咳き込む。
「貴様…っ‼」
夏侯惇の抗議の視線にも呂布は全く動じない。夏侯惇の頬に呂布の大きな手が触れる。
「いじりがいのある男よ」
呂布が目を細める。
「俺の兵達は無事なんだろうな?」
呂布の視線に何となく落ち着かない気持ちになり、夏侯惇は一番気になっていたことを尋ねる。呂布は小さく笑う。
「ああ、無事だ。お前が大人しくしている限りはな」
兵達が本当に捕虜になっている確証などはない。しかし、そうであるかもしれないならば己の身の振り方ひとつで彼らの命を危険には晒せない。夏侯惇はそういう男だったし、呂布もそれを見抜いていた。
「食事もきちんと取っているな。おかしな気を起こすなよ夏侯惇。お前が死ねば道連れにしてやるぞ」
呂布の猫撫で声に背筋がぞくりとする。
「…な‼」
呂布が不意に夏侯惇の身体を抱き上げ、寝台へ降ろした。自らも寝台に上がり、夏侯惇と正面で向き合う。
着物の裾が乱れ、夏侯惇の胸元は大きくはだけている。呂布はその脇腹に指を滑らせる。呂布のごつごつした手の感覚に、これから始まるであろう凌辱に、夏侯惇は唇を噛む。
「そんなに俺が嫌いか?」
呂布が夏侯惇の顔を覗き込みながら言う。夏侯惇は顔を背ける。
「ああ、嫌いだ」
夏侯惇はそれだけ言うと黙り込む。呂布は何かを思いつき、ニヤリと笑う。
「では、自分でやってみせよ」
呂布の言葉に夏侯惇は眉を顰めた。呂布は夏侯惇の着物の裾をめくり上げる。
「お前が果てるところを見たいて言っているのだ」
目をすっと細め、呂布は言う。その響きには、巫山戯た話にもかからわず冗談と笑い飛ばせる雰囲気は一切見当たらない。夏侯惇は一瞬困惑し、呂布を見る。
「そんな顔をするな。それが嫌なら俺の獲物でいかせてやってもよいのだぞ」
呂布が自分の股間を撫でる。夏侯惇は屈辱に奥歯を噛みしめる。
「どうする?決めるのはお前だ」
夏侯惇は躊躇いがちに股間に手を伸ばす。呂布はじっとそれを見ている。
「お前は異常だ…!」
夏侯惇は自らの雄を取り出し、ゆるゆると扱き始めた。呂布の視線に曝され、屈辱の思いにいくら手を動かしても夏侯惇のそれは殆ど変化がない。
「どうした?曹操を思えば気が乗るんじゃないか?」
呂布の下卑た言葉に夏侯惇は逆上し、呂布の胸倉を掴んだ。
「貴様、ふざけるな!孟徳とは主従の関係だ!それ以上でもそれ以下でもない‼」
夏侯惇の鬼をも退ける剣幕に呂布は口角を釣り上げ笑ったままだ。呂布は夏侯惇の身体を突き放す。
「続けろ」
短くそれだけ言うと、胡座をかき腕を組んで夏侯惇を氷の瞳で見つめた。
夏侯惇は寝台に体重を預け、 ひとつため息を吐いた。そしてまた作業を続ける。
一行に変化の無い夏侯惇の萎えたままの性器を一瞥し、呂布は夏侯惇の後ろに回り込み、その身体を背後から抱きすくめた。
「興が乗らぬようだからな、手伝ってやろう」
夏侯惇は呂布を拒もうと身体をよじるが、身体一回り大きな呂布に抱きかかえられた格好で逃げるに逃げられない。
「や、やめろ!自分で…!」
「自分では全く勃たないだろうが」
呂布が夏侯惇の首筋に唇を落とす。夏侯惇はびくりと身体を震わせる。
「貴様…‼」
夏侯惇は身じろぎするが、呂布は全く物ともせず、夏侯惇の手に指を絡め、股間に導いた。そして、夏侯惇の雄をゆっくり上下に扱き始める。
「クッ…‼」
他人の手で触れられる恥辱に夏侯惇は唇を噛む。呂布は夏侯惇の首筋に舌を這わせ空いた方の手で胸の蕾を摘まむ。
「うぐ…!」
夏侯惇がくぐもった呻きを漏らす。呂布はさらに夏侯惇の耳朶を甘噛みし、耳元で囁く。
「勃ってきたぞ」
気が付けば、いつの間にか容積を増した自身に夏侯惇は自分でも驚いた。
「耳が弱いのか?」
呂布が耳朶を舐め上げる。ザラリとした温かい舌の感触に夏侯惇は身震いする。
「や、やめろ気色悪い」
夏侯惇は頭を降る。
「ここも感じているな」
桜色に染まる胸の突起は既に硬くなり、呂布の指が表面を撫でると夏侯惇はびくりと反応する。
夏侯惇の雄は腹に付かんばかりに反り返り、ビクビクと脈動していた。呂布のそれと絡ませた指も先走りで濡れ、湿った音を響かせる。
「…んぅ…はぁ…ッ」
夏侯惇の唇から切ない吐息が漏れる。呂布は知らずきつくない程度に夏侯惇の身体を抱きしめていた。
「お前、意外に細身だな」
呂布は夏侯惇の肌を愛撫しながら言う。夏侯惇はそれに応えず、ただ快楽に耐えている。
「この身体のどこにあれだけの力があるものか、不思議よ」
「お前とは、見ているものが違う…からな」
夏侯惇が静かに言う。その言葉に、強い意思を感じる。
「曹操か」
呂布の言葉に夏侯惇はピクリと反応する。呂布は面白くなさそうに夏侯惇の顔を持ち上げ、無理矢理口づけた。
「俺を見ろ、仕えろとは言わぬ」
その響きに、何処か余裕のないものを感じ、夏侯惇は呂布を見上げる。呂布はまた表情を凍り付かせ、夏侯惇を一気に追い上げた。
「あ…あぁっ」
夏侯惇の身体がしなり、呂布の胸に体重がかかる。内腿が痙攣し、白濁を散らした。呂布の指を濡らし、夏侯惇の内腿を濡らした。
果てたあとの気怠さに、夏侯惇は知らず呂布に身体を預けていた。呂布は夏侯惇を背後から抱いたまま、動かない。
段々と意識が明瞭になり、呂布にまた身体を弄ばれた屈辱に夏侯惇は唇を噛んだ。呂布の腕を退かす気力もなく、ただそのまま時間が過ぎる。
「なあ、暑いぞお前」
夏侯惇がそれだけ言う。呂布はのろのろと夏侯惇から離れた。寝台から立ち去ると部屋に備え付けられている水桶を持ってきて、夏侯惇の身体に散った残滓を拭ってやる。その行動に夏侯惇は内心驚いたが、何も言わずただ見ていた。
呂布が再び寝台に上がる。軋む寝台に、夏侯惇は身構える。しかし、呂布はそのまま背を向け横になった。半身を起こしたままの夏侯惇はその姿を呆気に取られて見ている。
「今宵はここで休む。寝首をかくなら今だぞ」
呂布が夏侯惇をチラと見て笑う。夏侯惇はしばらく動けずにいた。いつ呂布の手が伸びてくるか警戒していたが、そのうち寝息が聞こえ出した。夏侯惇は仕方なく、自分も横になり、呂布に背を向けた。背後の男から殺気は感じられず、先ほどの緊張感から解き放たれ、一気に疲れが襲って来た。夏侯惇は目を閉じ、眠りに落ちた。
翌朝、呂布の姿は無かった。着物はきちんと着ていたので、おそらくあれから呂布はただ眠り、早朝ここを出て行ったのだろう。
使いの者に連れられ、湯浴みに行く。食事をして、また長い一日かと思いきや、状況は急な展開をみせる。
夏侯惇の部下が曹操軍を率いて乗り込んできたのだ。
「ご無事でしたか‼夏侯将軍!」
腹心の涙する顔に夏侯惇は安堵する。そして、すぐに戦の顔になり、捕虜を探すよう命じた。
昼間とはいえ、予想外の兵の数を揃えた奇襲に呂布軍は散り散りになったようだ。夏侯惇と部下の兵達は曹操の待つ拠点に無事撤収が完了した。
「おお、無事であったか惇‼」
曹操の喜びの出迎えに夏侯惇は首を垂れる。
「すまなかった、俺の油断だ」
短くそれだけ言うと、処分を覚悟し、夏侯惇は押し黙る。
「よい、結果的に呂布の拠点を潰すことができ、お主も兵も無事であった。よく休め」
曹操は夏侯惇の肩に手を起き、柔らかく微笑んだ。夏侯惇はその顔を見て安堵の為か涙を落としそうになるのを堪えた。
後に淵に聞いたところ、夏侯惇が呂布に捕らえられたと聞いた曹操はそれは怒り、取り乱したという。それでも二日、寝ずに策を練り今回の奇襲に及んだと。
夏侯惇は自分の幕舎に戻り、寝台に腰掛けた。深く俯き、呂布に与えられた恥辱に身を震わせた。そして曹操の想いに、情けなさが募り、悔しいのか悲しいのか分からず涙を落とす。
嗚咽を漏らし、暗い部屋で独り泣く。
不意に気配を感じ、夏侯惇は顔を上げた。そこに夕闇に表情が見えぬ曹操が一人佇んでいた。
「すまんな、声をかけたが返事がないので入らせてもらったぞ」
夏侯惇は泣いていたのを悟られまいと、ぐっと涙を拭い、立ち上がって曹操に背を向けた。
「すまん、考えごとをしていた。茶でも居れよう」
努めて明るい声を出す夏侯惇の背を曹操はそっと抱いた。
「すまんな、惇。早くに迎えにいけずに辛い思いをさせた」
夏侯惇の背に曹操の体温がゆっくり馴染んでくる。
「いや、俺の落ち度だ。命が助かっただけでも感謝している」
夏侯惇はふ、と笑った。声が震えていなかったか不安に思った。
「惇、久しぶりに酒でも飲もう。後から儂のところに来い」
そう言って曹操は幕舎を出て行った。曹操の気遣いに夏侯惇はまた涙しそうになり天を仰いだ。
曹操に尽くす。この身も、心もすべて捧げる。夏侯惇はそう誓った。
戦局は泥沼の膠着を経て急展開を始める。呂布が仲間の裏切りに合い、その右腕である張遼と共に捕らえられたのだ。
抜けるような青空のもと、呂布と張遼は曹操の前に引き渡された。
呂布の交渉虚しく、曹操が下した決断は呂布は斬れ、張遼は生かすということだった。
「うぉおおお、曹操、貴様あ‼」
呂布の獣の咆哮が木霊する。曹操の瞳は冷酷な光を湛えている。
「曹操、ならば俺の処刑はそこの男に任せたい」
呂布の言葉に曹操はピクリと反応する。呂布の瞳が見据えた先は夏侯惇。
夏侯惇は動揺を悟られまいと呂布を見据え、眉を顰める。
「お前、何故…」
夏侯惇の言葉を曹操が遮る。
「ならぬ。貴様の処分は然るべき刑利」