覇道をゆく者
□夜の密度
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闇に炎が揺らめく。
床に脱ぎ捨てられた衣類が散らばっている。寝台の上で二人の影が重なる。呼吸は熱く、高まる互いの体温。曹操は夏候惇に息をするのも許さぬほど濃密な口づけをする。
「ま、待ってくれ孟徳…!」
夏候惇が曹操を制す。曹操は名残り惜しげに再び軽く口づける。
「何だ、惇。今宵はもうお主を抱くと決めた。泣こうと喚こうと、儂を止めることは出来ぬぞ」
曹操は甘い口調で夏候惇を宥めるように言う。夏候惇の頬に触れ、髪に指を絡める。以前の長い髪も好きだったが、今の短い髪もまた男の色香を感じさせる。
「その、頼みがある…」
顔を赤らめ、俯く夏候惇に曹操は言ってみろと促す。
「灯り、消してくれないか」
「何を言うかと思えば、して、何故だ?」
曹操の問いに夏候惇は口ごもる。曹操は夏候惇の髪を撫でながら答えを待つ。
「は、恥ずかしいからだっ…!」
振り絞るように夏候惇が答える。曹操は優しく笑う。
「何が恥ずかしいのだ、知った仲だろう」
「だ、だから恥ずかしんだろうが!お前の顔もまともに見れぬ。それに…」
夏候惇が頭をガシガシかく。昔からの夏候惇の照れ隠しの仕草だ。
「それに何だ?」
「それに、俺みたいな…いかつい男が、その…あり得ないだろ」
曹操はそれを聞き、声を出して笑う。夏候惇は不貞腐れている。
「ハハハ、すまぬ!まさかそんなことを気にしていたとはな。おなごよりも可愛げがあるぞ、惇」
「…‼」
曹操は夏候惇の額に軽く口づけ、寝台の脇の蝋燭の火を吹き消した。
部屋がすうっと暗くなる。しかし、空けはなった窓から月の光が部屋を蒼く照らしている。
夏候惇の肌が白く浮かび上がる。健康的な艶のある肌だ。日頃から黙々と鍛錬を重ねているようで、しなやかな筋肉が艶めかしく隆起している。
「月の明かりもなかなかおつだな。先ほどよりもより色めいて見えるぞ」
曹操は思わず溜息を漏らす。そして夏候惇の首筋に舌を這わせる。夏候惇は身体を硬くして目を閉じている。
「ん…‼あ…っ!」
押し殺した声が漏れる。夏候惇は拳で口元を抑え、声が出ないよう耐えている。
曹操はその手を優しく封じた。
「首が弱いか?主の声が聞きたいのだ、我慢するでない」
「や…でもっ、こんな男の声、なんか気持ち悪い…だろっ」
曹操は夏候惇の首筋を強く吸う。肌に紅い跡がいくつも散る。
「お主が、感じている声を聞くと可愛いくてもっと鳴かせたくなる」
曹操は夏候惇の胸の蕾みを指でなぞる。夏候惇の身体が跳ねる。
「んあ…っ!」
夏候惇は喉を鳴らすような声を漏らし、顔を紅潮させる。曹操は更に指でそれを捏ねる。
「や…ぁっ!」
「感じるか、惇」
曹操はもう一方の突起に舌を這わせ、それを口に含む。舌先で転がせばそれは硬くなり、膨らみを持つ。
「あぁ…んっ!」
「敏感だな、惇。身体が打ち震えておるぞ」
曹操は夏候惇の反応に欲情が抑えきれなくなるのを感じていた。もしここでやめてくれと懇願されても、止めるこてなど出来ない、そう思う。
曹操の手が夏候惇の脇腹をなぞる。引き締まった美しい肉体だ。
夏候惇は曹操に触れられているというだけで身体が反応する。その温かい手が肌をなぞれば温もりが残っていく。曹操は武人であるが、長い綺麗な指をしている。もちろん女のように細くしなやかではないが、
夏候惇はその指を綺麗だと思った。書を記すとき、自軍の配置図を指差すとき、その指の動きに目を奪われていることは曹操には絶対に言えない。
曹操の手が内腿を撫で上げたとき、夏候惇は慌ててその手を止めた。
「なんだ、惇」
「や、その…くすぐったいと…」
曹操は不意に夏候惇の唇を塞いだ。舌を差し入れ、口内を蹂躙する。夏候惇は思わず曹操の背を抱く。曹操は夏候惇の雄に手を伸ばし、それをゆっくりと扱き上げる。
「うわっ‼孟徳っ…⁈」
夏候惇は驚いて唇を離し、身体を捻って曹操から離れようとする。
「逃がさぬぞ、惇」
「やめ…っ!そんなとこ…」
曹操の手の中で刺激されそれは容積を増していく。熱く脈打ち、硬く屹立する。
夏候惇はゆるゆると抵抗するが曹操は難なくその手を払いのける。
「気持ち良いか?たまには人にされるのも良かろう」
耳元で囁かれ、呼吸を荒げている夏候惇はただ頭を降るしかできない。
「ん…っ!はあっ…!」
曹操の手が先走りでぬるぬると滑る。親指で先端を擦ればそこから涙のように溢れてくる。
「あっ…ん…‼」
「全く、こんなに濡らして仕方ない」
「す、すまない…あ、も、孟徳っ⁈」
不意に股間に顔を埋めた曹操に夏候惇は驚き、目の前の光景を息を飲んで見ている。
曹操が夏候惇の雄を口に含み、舌で刺激している。
「もっ孟徳っ…‼そんな、うわっ、あっ…‼」
先ほどとは比べものにならない快感に夏候惇は大きく仰け反る。曹操の温かい口内に包まれ、舌先でなぞられると鼻をつくような喘ぎが漏れる。
ずしりと重みのある玉を手で揉みしたがれ、口で雄を舐られ夏候惇は体験したことのない強烈な快感に身を震わせている。
「孟…徳っ‼駄目だ、出る…っ」
夏候惇の内腿が小刻みに震えている。もう達する寸前だと分かる。
「良い、惇。出せ」
「やっ、そんなこと…っ出来な…あんっ!あ…あぁあっ」
自分から逃げようとする夏候惇の腰を抱きしめ、最後の仕上げとキツく吸い上げると夏候惇はびくんと跳ねて精を散らした。
達したばかりの身体は脱力し、寝台に沈む。曹操は夏候惇の精を舐めとり、清めてやる。放心状態の夏候惇の髪を優しく撫でる。
夏候惇は浅い呼吸をしながら、曹操に何とか起き上がり、曹操に頭を下げる。
「す、すまないっ…!主君にこんな真似を…!」
曹操はそれを笑い飛ばす。
「こんなときに主君も臣下もないだろう。儂は、元譲、お前という人間を好いておるのだ」
曹操の心持ちに夏候惇は恥じ入り、おずおずとその身体を抱きしめた。
「俺も、孟徳が好きだ」
顔を見られるのが恥ずかしく、耳元でつぶやく。
「孟徳のも、同じように…」
夏候惇は曹操の茂みを掻き分け、躊躇いがちに屹立した雄に触れる。硬く滑らかなそれを握り、ゆっくりと上下に擦る。
先走りで先端が艶やかに光っている。夏候惇は曹操の股間に顔を埋め、猛る雄肉を口に含んだ。
「惇…‼無理をするなよ」
曹操は夏候惇の行為に驚きながら、その髪を優しく撫でる。慣れない行為に夏候惇が咳き込む。
「大丈夫か、惇?」
「ん…ああ、すまないこういうのに慣れてなくて…」
慣れていたら監禁して仕置だなと曹操は思った。この年下の従兄弟が愛しくて仕方がないのだ。
拙い舌先が己の雄を舐めている。それだけで心地よい。
「き、気持ちいいのか…?」
夏候惇が何も言わない曹操が気になり、遠慮がちに尋ねる。曹操は妾もたくさん抱えて夜毎の享楽だ。不器用な自分のやり方では満足できないだろうことを思っての不安だった。
「ああ、気持ち良い」
溜息交じりにそう言って瞼を閉じる曹操を見上げ、夏候惇は丁寧に曹操の雄を愛した。
「もう達するぞ…惇」
「んっ…」
曹操の雄が強く脈打ち、白濁を吹いた。夏候惇は上手くそれを受けられず、手に顔に曹操の熱い精を受けた。
「そそる姿よな」
曹操はニヤリと笑う。達しても余裕な曹操に夏候惇は自分の経験不足を悔しく思った。
曹操は己の欲望で汚れた夏候惇に口づけた。布で丁寧に拭き取ってやる。
そして夏候惇を寝台に寝かせて、足を開かせる。これには先ほどまでの行為に惚けていた夏候惇も恥ずかしさで抵抗しようとする。
「ちょっ…孟徳⁉なにす…ひあっ⁈」
何か冷たいものが玉のあたりにたらされ、それがゆっくりと後孔へ伝うのを感じる。
「暴れるな、いきなりは入らぬから慣らしてやるのだ」
「えっ、何っ⁈まさか」
曹操は充分に潤滑油をそこに垂らしたあと、ゆっくりと指を挿し入れた。
「あ…ひぃ…う、嘘だろっ」
夏候惇は身体を硬くして呻く。後孔への異物の侵入を身体が拒んでいる。
「初めてだな」
「あ、当たり前だ…っ‼こんなこと…あ…‼」
曹操は根気よく孔をほぐしてゆく。夏候惇が悪態をつかなくなるまでどれくらいの時間が経っただろうか。時折、甘い吐息が漏れるようになってきた。
「惇、挿れるぞ」
曹操が夏候惇の足を持ち上げ、後孔にそそり立った自身をあてがう。
「力を抜け、惇」
曹操は腰をぐいと突き進めた。
「あぁああぁあ…‼‼」
夏候惇の身体がしなり、曹操を締め付ける。その痛みに、曹操も気が遠くなりそうになるのを必死で耐える。二人の呼吸は荒く、苦痛に満ちている。
曹操は、夏候惇の肩口に口づけ、髪をそっと撫でる。
「惇、痛いか?」
優しくよぶ。
「んっ…痛い…のかよくわからん…熱くてっ…あぁっ」
「…ッ‼くっ、一旦抜くか…!」
あまりの締め付けに流石の曹操も気を失いそうだ。身を引こうとしたとき。
「孟徳っ…好きだ…」
熱に浮かされたような夏候惇の声。そして身体の力が抜けた。曹操は力强く夏候惇の身体を突いた
。
「ぐうっ…‼」
「あぁ…、奥まで…入ったぞ」
二人は肩で息をして身体にはうっすら汗が滲んでいる。曹操は夏候惇の身体に倒れ込む。
「やっと、一つになれたな」
曹操が呟く。夏候惇は知らず涙を流している。
「泣いているのか、元譲?」
曹操が夏候惇の涙を指で拭う。
「痛むか?」
普段の威厳ある声ではなく、慈しむような響き。
「違…‼分からない、けど、何でか分からぬ」
「惇、ここだ」
曹操が結合部に夏候惇の手を導く。曹操の身体とこんなにも密着している。
「あぁ、孟徳が中にいるのを感じる…凄く熱い」
「儂も惇を感じるぞ」
曹操が少し腰を動かす。夏候惇の身体がピクリと跳ねる。
「惇、動くぞ」
曹操はゆっくりと腰を動かし始める。夏候惇の身体がだんだんと反応を初める。締め付けがだんだんと心地よい密着に変わる。夏候惇が堪らず甘い嗚咽を漏らす。
「ああ、いいぞ、お主の身体、夢に見ておった」
「も…とくっ…‼あぁ…」
曹操の突き上げに夏候惇は今迄に経験したことのない強烈な快感を感じていた。突かれる度に我慢出来ず嬌声が漏れる。
「元譲…元譲…‼」
熱に浮かされたように互いを求めあいながら、高みに駆け上がり、そして同時に果てた。
夏候惇はそのまま意識を失い、力なく倒れこんだ。二人繋がったそのまま、しばらく抱き合っていた。
曹操が心地よい疲労に揺蕩う身体を何とか起こし、意識のない夏候惇の身体に散った精を清めた。
そしてしどけない横顔にそっと口づけた。
翌朝、腰を庇うように定例会議に出席した夏候惇に密かな注目が集まったのは言うまでもない。