K(アニメ)二次本文

□そんな日に
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 そのまましばらく互いが無言のまま時間が過ぎた。大体、二人だけの時は口数の少ない者同士、喋らずに流れる空気に浸っていることが多い。そして、それが自然に思えるのだから不思議なものだ。
 そのうち日頃の寝不足のせいかうつらうつらしてきて、伏見はごろりと横になって、空気に溶けた煙をかいだ。夏だけの、それもクーラーの効いた執務室か巡回に出る街中では嗅がないそれは、条件反射的に今は夏なのだと頭に刷り込む。
 そう言えば、とぼんやりした頭で思い出すものがあった。
 中学の頃。八田と一緒にいた頃。
 何をするでもなく、八田の家に転がり込んでいた。八田の家は母子家庭で、いつも母親は夜遅くまで帰ってこなかった。それをいいことに伏見も夜まで八田の部屋でなんとはなしにだべっていた。夏になると、やはりクーラーなんて気の効いたもののない部屋では窓を開けるしかない。もちろん、網戸はしていたが、蚊は入ってきていた。そこで蚊取り線香を窓際でつけていた。その時と同じような、落ち着く香りだ。
 どこで嗅いでも同じわけではない。 元々心を許せる人間の部屋で、そんな人間がそばにいて、なにをするでもなく共にいる。そんな時、この煙はひどく落ち着いた。
 けれど、中学の頃と今では、違うものがある。一緒にいるのが今は八田ではなく弁財であること。そして、伏見の見ているものは色のくすんだ、どこか焦燥感をかき立てる世界ではない。目が眩むような鮮やかさはないけれど穏やかな気持ちで見ていられる、確かに色づいて見える世界。
 そうやって居心地のいい空気に流されるように目を瞑れば、うとうとしていたらしい。開け放たれた部屋に差し込む光の角度が僅かに高くなっていて、ああ、寝ていたのか、と分かった。気がつけば、弁財の気配が部屋を離れれていて、少し遠くからまた近づいてきていた。そろそろ昼だろうか、意識が落ちる前より暑くなっている気もした。
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