K(アニメ)二次本文

□そうめん
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 するするとそうめんをすする姿は、すする、という表現に違和感を覚えるほど静かで滑らかだ。
 まず、器からそうめんをすくう時点から違う。多すぎず、少なすぎず。素早く水気を適度に切って、机に水滴を落とさないようにつゆの入ったお猪口まで持っていく。それからつゆにそうめんをつけるわけだが、そこでつゆにくぐらせることはしない。先をそっと入れて、そっと上げる。真っ白な部分も多く残るくらいのつけ具合にとどめておく。
 後は口に運ぶだけだが、普通はここでめんの先が揺れて盛大に水やらつゆやらが飛び散る。普通は。
 しかし、今さらそんなへまをするわけもなく、実に優雅にそうめんをくわえてから、めんを揺らすことなく箸をそえ、すする。
 ああ、それからつゆに散らす薬味の量も丁度だ。これは少しばかり多い目、ではあろうが下品ではない程度で、むしろ色合いが美しくさえある。
 見ていると、これはなんの職人だろう、などという下らない考えが浮かんでくる。
 ついでに、これを前にして食事をするのは食事をするのはつらいものがある、と伏見は目の前の部下兼恋人である弁財を見ながら箸をとめた。伏見でなくても、かなりの人間は一緒に食事をすることに躊躇しそうである。
 いつも普通の定食やら適当に煮たり炒めたりした程度のものを食べるだけだったから、食べ方が綺麗だな、とは思っていたものの、敗北感すら感じるほどだとは思っていなかった。いや、食事でそんなことを考えるのもおかしいのかもしれないが。
「……どうしました?」
 もちろん、弁財は箸をとめて自分を見るだけになった恋人に違和感を覚えたらしい。こちらも箸をとめて、顔を上げた。伏見としてはどうもこうもねえよ、と言ってしまいたかったが、弁財が少しばかり心配そうな顔をしているのもあってそう言うことはやめた。もしかしたら口にあわなかったのか、とか夏バテしているのか、とか思っているのだろう。ただ、代わりに出てくる言葉もそう変わりないものなのだが。
「……別に。お前の食ってるとこ見てたら食うのがバカバカしくなってきた」
「は?」
 残念ながら…なのか、伏見の気分は伝わらなかったらしい。弁財は分かりやすく頭上に疑問符を浮かべて伏見を見る。
 それに、まあ分からないよな、と考えつつ伏見は言葉を重ねた。
「弁財さんって、食べ方綺麗ですよね」
「ありがとうございます。……?」
 既に何度も言われているのだろう。照れることもなく淡々と礼を言って、きょとんとする。それになんとはなしに腹立たしくもなるが、仕方ない。弁財にとってはそれが普通で、別に自分の食べ方が特別だとも思っていないのだから。
 しかし、きょとんとした後に、弁財は伏見が箸をとめた理由に思い至ったらしく、ああ、と苦笑した。
「伏見さんの食べ方も一口が小さくて可愛いですよ」
「……」
 可愛いと言われても嬉しいわけはない。しかもそれが本気で思っているのだから手に負えない。
 基本的には頭の回転が早くていい男なのだが、ところどころ、私的なやりとりでは天然を炸裂させる。今回はそうでもない方ではあるが。
 まさか男が可愛いと言われて喜ぶと思っているわけでもないだろうに。
「……嬉しくない」
 ため息をつくのも馬鹿らしくて、伏見はまた箸を動かした。
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