K(アニメ)二次本文

□初夏にチョコレート
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 何やったんだ、と犯罪者を見つめるような伏見の胡乱げな視線を、秋山は笑ってごまかし、答えの代わりに、紅茶とコーヒー、どっちがいいですか、と言った。それにあからさまに顔をしかめて、しかし伏見は紅茶、と呟いた。
「ミルクティーですかね。それともチョコレートが甘いだろうからストレート?」
「ストレートでアイスティー」
 首を傾げる秋山に、簡潔に注文をつけると、秋山ははい、と微笑んで頷く。少し待っていてくださいね、と言う秋山は“外”では見せない表情をしていて、伏見は我知らず満足した気分になった。
 簡易キッチンへ行った秋山が食器を鳴らずのをBGMに、伏見は机の傍に置いてある三人掛けのソファに座った。幾つもある箱の中から白黒の幾何学模様をプリントした紙で包まれたものを選んだ。他よりも少しばかり大きいそれを、バリバリと包み紙を剥いて露わにする。黒茶色をした缶が出てきて、伏見はそれを躊躇なく開ける。紙を剥がした時点で遠慮もなにもありようがなかったが。フタと本体部分を密封するようにしている半透明のテープをべりっと剥がして、カコン、と音を立ててフタをとった。途端にチョコレートや、中に入っているキャラメルや何やらの甘い香りが広がって、伏見は唇を引き結んだ。
 伏見、そして秋山は明言していないが甘党だ。ただし、だからと言って甘ったるいだけのものが好きなわけではない。全てが好きなわけでもない。伏見は苦手なコーヒーヌガーやホワイトチョコの香りに眉がよる。それは苦手なので秋山に食べさせたい。
 白いガサガサしたボール紙をのけて、チョコレートを見えるようにすると、香気は一層強くなる。一番上にのっていたチョコレートの簡単な説明が書かれた紙を開けて、伏見は中身と比較していく。
 そうしていると、いつの間にやら紅茶を淹れていた秋山が、盆にグラスを二つのせて戻ってきた。カラン、カラン、と高いくせにどこか鈍い音を立てる氷が赤茶色に浮かんでいる。
「はい、伏見さん」
「ありがとうございます」
 コト、と目の前にグラスを置いた秋山に礼を言って、伏見はそれに口をつける。勤務中によく飲むのはコーヒーだが、伏見が好むのは紅茶だ。それを知った秋山は、オフではコーヒーではなく紅茶を淹れてくれて、しかもそれが伏見の好みのものだったから、以来秋山に頼っている。伏見の紅茶係、のような状態で、しかし秋山がそれに対して不満を言ったり、それどころか嫌そうな顔をしたことが一度もないから伏見はそれに甘え続けている。今では使う茶葉も秋山が全て揃えてきている。茶葉はその日の気分で変わるらしいが、どれも伏見の好みにあっている。初めはそれが気味悪くもあったが、今ではそんなことは気にならない。
 伏見がそれに口をつけるのを見て、秋山はその隣に座った。盆は机の端に置かれる。
「伏見さん、どれに何が入ってます?」
「……コレがコーヒーヌガーでこっちがウイスキー」
 秋山の問いに伏見は紙と缶の中のチョコレートを見比べて、秋山の好きなものを指さしていく。何度かこういうことを繰り返すうちに、秋山の好みもだいぶ覚えてしまった。もちろん、伏見の記憶力がいいということもあるのだが。
 それに一々頷いて、秋山はそのうちの一つを手に取った。黒に近い茶色のそれに白い絵がプリントされている。特に何の図案かは分からないが、気にするようなことではない。
「ん。……おいしい」
 パキリ、とチョコレートの外殻が割れた音の後、秋山はもぐもぐと口を動かして、しばらくそれを味わっていた。ごく、と喉が鳴ってから、一言の感想をもらす。
 頷いてそれなりに満足そうな顔をしているので、お気に召したのだろう。伏見はそりゃあお高そうなものだし、と一人ごちて、自分もシンプルなビターチョコレートを口の中に放り込んだ。
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