K(アニメ)二次本文

□そんな表情
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「そんな顔もするんすね……」
初めて見る顔。
余裕を失って、自分の感情を隠すこともできない。サングラスの奥の瞳が焦って、伏見を見つめていた。
行かないでくれ、というようなそれに伏見は意外だと思って、でも泣きそうに嬉しくも思った。吠舞羅の中で一番年上であり、そして周防の旧友であることからなった幹部という立場から、決して彼自身の負の感情を出したがらなかった。感情だけに任せて突っ走り、後先を考えずに行動しがちなクランの中で唯一理性で行動するべし、と自分に課していた彼のその大人ぶった仮面を、伏見は壊せた。
最後に、素敵な記憶のプレゼントだ。
伏見は決して赤のクランズマンとなり切ることはできなかったし、吠舞羅に馴染むことも結局なかった。むしろ、本来はまったく別のところでいるはずのそこは、八田をとられた、という思いから憎みそうなほど嫌だったのに。
何故かそれを支え、吠舞羅として存在させている彼に惹かれ、そして彼も本来相容れなかったかもしれない伏見に惹かれた。
だから、今別れる。
それはすべて伏見のわがままで、褒められたことではないけれど、その行動に彼がそれだけの反応を返してくれる。理由がとうに分かっていたからだとしても、八田のように裏切り者とののしるでもなく、自分と相手のことを考えて葛藤している。草薙には、八田よりもずっと、伏見を拒絶し、ののしる権利もあるのに。
「ありがとう、ございます」
「最後にだけ素直とか……ほんま天邪鬼やね、伏見は」
「今さらでしょう」
つっけんどんに返して、伏見は両腕を草薙に伸ばした。
「……?」
その行動の示すところが分からないらしい草薙が眉を寄せると、伏見は笑った。
「最後なんですから、抱きしめるとか、キスするとか、してくださいよ」
「は」
いつもの伏見なら絶対に言わない言葉に草薙の目が大きくなる。
意表をつくのに成功したことにさらに伏見は軽やかに笑って、今までで一番純粋に、草薙を見た。愛おしい。
視線だけでもその気持ちがちゃんと、伝わるように。
「ほんま、そういうところ……タチ悪いわあ」
「どうも」
苦笑とともに腕をとって、自分の胸元へ引き寄せる草薙に、伏見はにや、と笑ってそう返した。
草薙は、そんな伏見に、言葉より行動の方が分かりやすいだろうと、ここを抜けても自分を忘れられないように自分を刻んでやることに決めた。
「好きやで……伏見」
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