K(アニメ)二次本文

□そんな表情
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八田に自分がセプター4……青のクランに入ることを告げた後、彼がいない時間帯を見計らって、伏見はバーに姿を現した。
「……お、伏見。いらっしゃい」
カランカラン、とドアベルの音に、カウンターの中に入っていた草薙が扉の方へ振り返った。夜の準備をしていたのだろう。草薙は酒瓶と布を手に持っていた。
そして、伏見を見て、その顔からなにかを悟ったらしい。
入ってき、と瓶を棚に戻して、伏見を手招きした。
伏見はバーの中を見渡したが、ちょうど他のメンバーはいないらしい。下手に騒ぎになることもないだろう、と伏見は扉の取っ手を離してバーの中に身をすべりこませた。その身のこなしが、まだ警戒を解ききっていない猫のようで、草薙はほろ苦く笑った。
「……」
いつもの席に座ることなく、カウンターの前で立ち止った伏見に座りぃ、と促す。しかし、伏見はいえ、いいです、とどこか硬い響きでそれを断る。
他のメンバーが入ってくれば、すぐに出れるようにしておかなければ。万が一、八田が来たら、その場合はバーの中で殺し合いが始まる。
さすがに、恋人の運営するバーの中でそれは、避けたかった。
そう、恋人だ。
目の前にいる大人は伏見のもので、伏見はこの人のもの。そうなっていた。
そのことを再確認したいという自分の誘惑に負けてしまいたかったけれど、伏見はそうできない理由が多すぎた。
「草薙さん」
いつまでもここにいるわけにはいかない。既に伏見は裏切り者で、敵対する組織の人間なのだから。
意を決して、伏見は自分が青の王にクランズマンにならないかと誘われたこと、しばらく迷ったが結局はインスタレーションしてもらうように決めたこと、自分はセプター4に入ること、吠舞羅を抜けてもう戻らないこと。それを順に話していった。少し、視線が下がる。さすがに、伏見も草薙の目を見続けて話すことはできなかった。
既に草薙もある程度分かっているだろうと、細かな部分は省いて話してしまえばそう時間はかからない。
だから、俺は吠舞羅を抜けます、と最後を締めくくった。
そうして、自分が伝えるべきことを伝えた後、伏見は両脇に下したままの手のひらをぎゅう、と握った。
そんな伏見を見ていた草薙は、自分たちがいつか来るだろうと考えていたことが今目の前で現実になったことに、ああ、と嘆息しそうになった。それを無理矢理に飲み込んで、けれどそうすると今度はまた別の響きが出てきてしまう。
「伏見」
耐え切れずに草薙の唇から零れ落ちた響きに、伏見はゆっくりと瞬いて、呆けたような目を彼へ向けた。
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