K(アニメ)二次本文

□ずっと知ってた
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「私も……私も、サルヒコが好き」
彼女の言葉は伏見よりも震えていて、さっきまで強かったはずの瞳はもう弱々しく揺れていた。
あくまで年下の女の子。
そのことをもう一度、改めて認識して、伏見はああ、と嘆息した。
アンナの目にはもう、伏見だけが映っている。
数年前までは、周防の後を追っていた。吠舞羅の仲間を映していた。彼女の保護者代わりの草薙を慕い、自由奔放なようでいて確かに彼女を気遣っていた十束と分かりづらくてもはしゃいでいた。
それなのに、今はもう、伏見だけを映している。
そして、そんな彼女の瞳に映る伏見も、彼女ばかりを映している。
今さらに、伏見は痛感した。
彼女は伏見が好きで、そして、それと同じに伏見もアンナを好きであること。
「……知ってる」
ぼそり、と呟いて、それに何も返せないように左手で彼女を引っ張って自分の胸元へ倒れこませた。そのまま、彼女が自分の気持ちが実感できるように、でも苦しくないように、しっかりと抱きしめた。
多分、十束あたりがいたら、遅いよ、伏見、なんて笑ってカメラを回していたのだろう。周防なら不機嫌そうに、それでもほっとしたように笑いながら二人を見て、二人の頭を撫でたのだろう。
今から草薙に言いに行けば説教されて、けれど最終的にはおめでとうさん、と祝うはずだ。
「知ってた、ごめん、アンナ……好きだ」
なにに謝っているのかも定かではなく、伏見は震えるアンナの背を撫でた。緊張の糸が切れて、ぼろぼろと彼女と同じくあたたかな涙をこぼして、しゃくりあげる彼女を彼にできるだけの優しさをこめて抱きしめる。
この後、彼女に今この瞬間のことを持ち出されて赤面して慌てることになろうが、しったことか、とやけくそに言葉をこぼす。彼女の涙と同じように、ぼろぼろと。
「多分、お前と同じでずっと好きだった」
「……うん」
涙でぐしゃぐしゃになってるくせに、綺麗に響く声。
そう言えば、アンナも伏見もいつだって綺麗な、好きな声だ、だなんて思うだろう。それを互いに知らずに、伏見は彼女の声だけで全部届いたような気がして目を閉じた。
「好きだ」
こぼれおちる。
伏見の背にも彼女の手が回る。そのまま二人して背に腕をまわしあって、ぎゅう、とくっつきあった。
例えば、伏見の言葉が気持ちを伴って彼女の心に、雪のように降り積もって溶けなければどうだろう。たとえば、アンナの気持ちがその温度と一緒に彼の記憶を愛しさ一色で染めていけばどうだろう。
そうすれば二人は馬鹿みたいに幸せになれるのだろうか。
「好き……サルヒコ」
でも、伏見もアンナもそれは嫌だなあ、と感じた。
伏見は彼女の気持ちを全部かき消したくはないし、アンナは彼の思い出を全部奪いたくはない。
だから、多分、関係がたった一言で変わってしまった今からも、これまでと同じようにばかばかしくなるほど遠回りに進んでいく気がした。
世界は赤色だろうか。
彼女の世界で、伏見はまだ色を保っているのだろうか。赤色しか映せない彼女の頼りない視界の中で。
伏見はそんなことを、自分に赤色を失わせないでくれた彼女を抱きしめながら考えた。
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