K(アニメ)二次本文

□ずっと知ってた
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ほら、私なら大丈夫だから
自分よりも一回りも二回りも小さな手のひらに掴まれた腕が、自分の意思なんて一切なしに彼女に包まれ、胸元に置かれる。胸の中心に置かれたから、その心音はよく分からなかったけれど、真摯な瞳に浮かぶ、不安と心配はまっすぐに自分を見つめていてひどく居心地が悪い。それなのに、それと同時に彼女の手から伝わってくるあたたかさを含んだトゲと真綿で作られたように頼りない鎖が伏見の意識をつかんでそらさない。
「お前……自分がなに言ってるのか、分かってるのか」
今よりもずっと幼いころから聡い彼女には愚問だ。けれど、それを分かっていてなお、伏見は問いかけずにいられなかった。彼女がしていることの意味。それを分かっていながら止めようとしない彼女の気持ちこそが分からなくて。
その覚悟がどうしてできるのか。そんな、自分だって似たようなことをしているのにどうしても認められなくて、伏見は馬鹿みたいな質問をした。
「うん。……分かってる」
対する彼女はそんな伏見のことすら見透かしたように頷く。
昔から、彼女は聡い。そんな彼女に見透かされている気がして、居心地が悪かった。彼女に引け目、負い目を感じている自分も知られていているようで怖かった。
彼女が、自分が彼女にそれだけしか、彼女に対して抱いていないように思われるのが、なにより嫌だった。
そんなわけも、ないのに。
「分かってるよ、サルヒコ」
「……」
アンナは相変わらず、伏見の目を見据えたままに言葉を伝えてくる。まっすぐ、まっすぐ。
彼女の両手は柔らかく、伏見の腕を、手を掴んで離さない。
逃げたいのに、逃げられない。
今が、潮時。
そう考えて、伏見は自己嫌悪に陥りそうだった。
自分は格好悪い。
伏見はそれを知っている。
伏見は頭がいいし、それを最大限に生かす術だって知って、持っている。自分の強みも、弱みだって自覚済みだ。自分が持つ脆さと、それからくる歪みすら。
だから、全部開き直って生きることにした。歪みを治す術は自分にはないと、その時点で分かってしまったから。
それなのに、アンナはそれらを見透かしたようにして、静かに暴いていく。
伏見の触れられたくないところまで見えてしまう彼女が、それを必ずしも、自分の好意も伏見のその内面も、肯定していないことは知っている。伏見の内面を互いの望まないことにも関わらず知ってしまうことに罪悪感を覚えてたまに目をそらしたがって、それでも見るしかない自分に嫌悪感を持っていることも。
でも、今伏見が格好悪いと思うのは、そんなことではなくて、このままでは肝心な言葉を年下で女の子であるアンナに言わせてしまうことになることだった。
そんな、簡単な一言をひどく怖がって、誰にも伝えられないで、彼女に言わせてしまうことが、なにより格好悪いと感じた。
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