K(アニメ)二次本文

□誰も知らない
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「明日はアンナの誕生日やけど、お前はなんか用意しとるんか」

草薙の問いかけに、十束はもちろん!と笑った。
今年もアンナが好きな赤色のプレゼントだ。
きっとアンナはなんでも喜んでくれるのだろうけど、できるだけアンナの好きなものをあげたかった。

ついでに、カメラでアンナに見せるための景色を少し前から撮りためている。
既に十分すぎるほどにたくさんの景色を撮っているが、誕生日直前となる今日は夜空を撮ろうと決めていた、
愛用のカメラを持って立ち上がった。
そうして、草薙にちょっと外に行ってくるね、と言ってから扉を開けてバーから出た。
気ぃつけやー、と後ろからかかる声に大丈夫だよーと返して。

バーから少し離れたところにある、目当ての屋上に入る鍵は既に持っている。
このビルの管理人と仲良くなった際に、少しくらいなら貸せる、と今日の昼に借りてきたのだ。
もちろん、他には誰にも貸していないはずなので、屋上は貸切のはずだ。
誰かと来ててもよかったかなあ、と考えつつも十束の足取りは軽かった。

しかし、十束とその管理人以外には入れないはずのそこには先客がいた。
金属棒でできた柵のすぐ近く。
白髪なのか銀髪なのか闇で判別がつかないが、とりあえず体格と声で少年だろう、と分かる。
彼は体を揺らしながら鼻歌を上機嫌に歌っている。

十束は特に警戒心も抱かずに、ちょうどいい、とカメラを回しながら彼に話しかけた。

「やあ、いい夜だね。俺は十束多々良。……君は?」

にこやかに話しかけた十束に少年は変わらず鼻歌を歌い続けている。
これは答えてくれないのかな、と首を傾げてカメラを構えたままでいれば、少年は唐突に振り返った。

「いい夜?……あぁ、いい夜だ」

ぐるり、と顔を十束に向けて、にい、と唇の端を上げた歪な笑顔を浮かべ、音もなく上げた手には銃を握っていた。
人間として何かが破綻した表情に怖気が走る。
これは、いけない。

しかし、まずい、と思った時には既に遅かった。
“吠舞羅最弱の幹部”である十束には、銃弾も防ぐことは難しい。

パン、と乾いた銃声が響いて、数秒遅れで体に熱い痛みが走った。

「……っ」

途端に腹に開いた穴から血が吹き出し、足から力が抜けて十束は崩れ落ちる。

十束は度々自分から厄介ごとに首をつっこむおかげでしょっちゅうケガをしている。
大なり、小なり。
そのため、痛みや脱力感で自分がどのくらいの状況なのかを分かるようになっている。

そして、十束は今、もう自分は助からないのだろうと悟ってしまった。
草薙に気をつけろ、と言われたというのに銃に撃たれて。

はあ、と息を苦しげに吐く十束に、少年はもう興味はないとばかりにその隣をさっさと歩いて通って行った。

ガツン、と十束の少し離れたところに転がったカメラを少年が足で蹴る。
そのまま、カメラを踏みつけた状態のままで少年は手を広げて高らかに名乗った。

「オレは第七王権者、無色の王」

王、と痛みで一時的に朦朧とする頭で反芻した。

まずい

動けないでいるうちに、少年は十束の視界から消えた。
とん、と軽い音が近くでしたと思えば、影が消えて、あたりは束の間の静寂に包まれた。

しかし、だらりと投げ出された手足にはもう力が入らず、十束は誰に助けを求めることもできない。
どんどんと血が流れ、着込んだ服を濡らしていく。
血を失ったことによる寒気と、冬の冷え切った空気に体温を奪われていく寒気。
ぶるり、と背筋を震わせて、十束は自分の目の前に広がる都会の夜空を視界に入れて白い息を吐いた。

このまま、誰もいない場所で、一人死ぬのはさすがに寂しいから嫌だなあ、とは思ったけれど一人で来てしまったのは十束だ。
しかも、行き先を伝えていないから、帰りが遅いと思っても草薙たちはすぐに辿り着くことはないだろう。
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