K(アニメ)二次本文

□誰も知らない
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グラスを真っ白な布で丁寧に拭いていく。
毎日水仕事をしているのに白く綺麗な指先で優しく扱う彼の目は多分、サングラスの向こうで上機嫌に細められているはずだ。

十束は草薙が好きだ。
この場合の「好き」とは、先輩後輩、友人、仲間としてでのそれとはまったく違った質のもので、いわゆる恋愛感情としてのものだ。

声を聞いた時、姿を見ている時、目を向けられた時、ふっと気がつけば、彼を好きだと心の中のどこかで湧き上がる気持ち。
それは、ゆらゆらと炎のように不定形で、ひどく頼りないくせに、決して消えはしないと叫んでいる。
それこそ、周防からもらった小さな火種から飛び火したような、そのくせ、元よりも熱く、強い。
そんなこと、周防たちには言えないけれど。

ああ――好きだなあ

周防のことは、初めて会った時に、この人ならすごいことができる、と思った。
その内にすごい力を持っている気がして、惹かれた。
キングと呼んで王に祭り上げた。
今も慕って、死ぬまで離れられない。
でもそれは「信仰」であって、「恋愛」ではない。

けれど、草薙は違った。
バカをする周防や他の仲間たちのフォローをして、世話を焼いて。

一目惚れではない。
ありがちな話だが、気づいたら、というヤツだ。
ただわけも分からずに惹かれていた。
言わないと決めてしばらく経った今も。
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