K(アニメ)二次本文
□好き嫌い
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「俺、桜嫌いなんですよ」
「…へえ」
伏見は気のなさそうな返事をしたが、声は興味を持った風だった。
続けてみろよ、というような視線を横から向けられて弁財は言ったものか迷ったが、結局口をまた開いた。
「咲いてるところとか散ってるところとか……普通は綺麗だとか言いますけど、俺にはその気持ちは分からない」
「いつから?」
「小さい頃からずっと、ですね。いまだに好きになれません」
白くて淡い赤をまとうそれを昔から好きになれない。
同じ時期に咲く花ならば、桜よりは釣鐘の形をした白と緑の花や、星のような形をした水色の花の方が好きだ。
名前は前に秋山から聞いたことはあるが、忘れてしまった。
そう告げると、伏見は少し考えるそぶりを見せて、思い出しているようだった。
伏見の知識はわりと幅広くて、それこそ仕事にも彼の興味のあることにも関係なさそうな分野のものまである。
少し待っていると、無事に思い出せたようで、ああ、と意味のない呟きを漏らした。
「それなら、スノーフレークとかスターフラワーですね。……ずいぶんとかわいい花が好きなんですね……」
呆れた口調の伏見に、よく知ってますね。と言うと、常識でしょう、と返された。
しかし、普通の男は桜や薔薇、梅、チューリップあたりは知っていても、それ以外の道端に咲いている花の名目なんて覚えていないだろう。
伏見が物知りなだけだ。
「まあでも、桜が嫌いって珍しいでしょう」
「ええ、まあ……いや、咲いてる花一つ一つは別にかまわないんです。ただ、ああやってどこもかしこも同時に咲いて同時に散るのが気持ち悪くて」
だいたいそこらへんに植わってある桜は同じ木からの接ぎ木によるものだからというが、弁財からすれば余計なことをしてくれたものだ、という気分だ。
ソメイヨシノがそんなにいいものか。
むしろ、八重の枝垂れの方がよっぽどかわいげがあると弁財は独白する。
「第一、なんで散っている姿がいいのか…死んでるじゃないですか」
散っている桜の花びらは要するに、死んだ後の桜だ。
言ってしまえば、外見が綺麗な人間から抜けた毛を同じように綺麗、というのとなにが違うのか。
……例えは悪いが。
心底嫌そうに吐いた弁財に、伏見は小さく笑った。