K(アニメ)二次本文
□君にとってこの場所が
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「…伏見さん」
「んん?」
名前を呼べば気の抜けた声が返されるのに、気を悪くするだなんてとんでもない。
その声を聞けるのはまだ自分一人だけであろうという特権にまた笑って、タンマツから顔を上げて自分を見ている彼に話しかける。
「お腹、すいていませんか」
「…いや、あんまり」
「…そうですか」
「…なに、アンタは腹減ったの」
逆に問いかけられて、ええまあ一応、と曖昧に肯定するとふぅん、と彼はまたタンマツに目を落とした。
はぐらかせば機嫌を損ねるが、一応の形でも答えればそれで終わる。
いつも通りの反応に苦笑を落として、この人は相変わらず食が細いと心の中だけで嘆いてみた。
自分から食べたい、と言ってくれればいいのだが、通常勤務中だとだいたいブロック状かゼリー状のの栄養食品ですませてしまう彼のことだ。
食への関心が薄いどころか、エネルギーさえ切れなければいいと思っている節がある。
しかもそれが自分を含めた部下が至らないせいなのだからあまり強く言えない。
「…じゃあ、なんか食います?」
「…え」
だから、今の言葉に驚いてしまったのは仕方がない…と思いたい。
「だから…腹減ってるんでしょう。メシ食います?」
間抜けな声を出した自分に眉を寄せる彼に内心動揺しつつ本を閉じて顔を横へ向ける。
「え、ええ…伏見さんは」
「アンタが食うの少しちょうだい」
「分かりました。じゃあなにか作りますか?それとも外に出ます?」
「弁財、さんの作ったヤツ」
「はい…じゃあ少し待っていてください」
冷蔵庫の中には多少の食材は入っているはずだ。
自分も同室の男も一応基本的な調理くらいはできるのでたまにこうやって料理する。
そのため互いに思いついた時に食材を買ってきては料理を作るようになっていて、今も伏見が食べられるものがあるはずだと冷蔵庫の中身を思い出しつつ何を作るか考える。
とりあえずキッチンに行かないことにはどうにもならないので、頭をどいてもらい立ち上がる。
本を目の前のローテーブルに置いて、そこで本の開いていたページにしおりを挟むのを忘れた、と気づいた。
よっぽど驚いていたのだと今さらながら自覚して恥ずかしい。