K(アニメ)二次本文

□かえす
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それこそ伏見が来てすぐは秋山も少々面倒なことになった、とは思ったが、伏見は優秀だ。
制服も着崩しているし、撃剣の通常訓練どころか全体練習ですらなかなか姿を現さない。
一人で行動することもよくあるし、室長の“お気に入り”だという。
そんなものをすべて補って余りあるほどに、いや、それも当然だと思わせるほどには能力が高かった。
戦闘では何故こんな強い人が情報課にいたのかと思うほどで、通常時のデスクワークでは班長であるのは当たり前だな、と思うほどに処理能力が高い。

そして、よく騒いだり書類の出来が悪い日高たちにはすさまじい罵倒を浴びせ舌打ちも当たり前だが、秋山や弁財のような騒がずそれなりに仕事も早い人間にはそうきつく当たらない。
というより、日高たちの仕事が滞っている時はなんだかんだで仕事を一部引き受けたり、分からないところがあればなんだかんだで教えたりとぱっと見はそうは思えずとも世話焼きでお人好しだった。

それに気づきさえすれば、伏見を上司として尊敬するようになった。

当初は秋山が伏見に弱みを握られたのではないか、などという非常に不本意な噂まで流れたがそのうちそれも消えた。

秋山がクッションになって伏見のそういう内面を周りにも伝えられるようにしていたこともあるし、そうでなくても時間が経てば、ところどころににじみ出る伏見の気遣いなどに自然とまわりが気づけるようになっていったのだ。

ただ、伏見は、甘やかせば困ったような顔を見せる。
好意を伝えれば怯える。

なんでこの人はこんな反応を見せるのだろうとそんな彼を見ては思ってしまう。

今ですらまだ19歳の未成年。
入ってきた時はさらに幼く、世間では・・・・・・というより秋山たちなら高校で馬鹿をやっていた年だった。
そんな子どもが、そんな反応をするのが不思議で、そしてなにより悲しかった。
どんな生活をしてきたのか。

それを思ってから、初めは生きづらいだろうな、と思った年下上司の常の言動を思い出した。
あんな態度を取れば周りに煙たがられるということくらい分かっているだろうに、何故か上司に注意されても改めずむしろ周りを引き離すような態度をとり続けるのか。

多分、誰かに無条件に愛されたことや、そうでなくても誰か信じられる人間を得られなかったのだろう。
もしくは、それに裏切られたかだ。

そう推測していたのはどうやら正しかったらしく、どうやら伏見は中学時代の唯一の親友との不和でセプター4に入ってきたらしいとそのうちに知れた。
相手は伏見を裏切り者と叫んでいたが、実際には伏見が置いて行かれただけの話だった。

それを徹夜続きで疲れ、うとうととしていた伏見から聞いてから、自分たちが彼の味方であることをちゃんと分かってほしいと願った。

そして、それから少しずつ、自分たちが伏見の味方であること、彼に好意をもって接していること。
離れないこと、見捨てないこと。そういうことを遠回しに、時に直接伏見に伝えていった。

今では好意を口に出しても逃げられないほどになった。

もう周りも彼の不器用さには気がついている。
受け入れられている。

きっともうすぐに、捨てられた親友だけに執着して自分を傷つけなくていいのだと、伝えられるようになるだろう。

焼き潰した徴をひっかくのをあまり見なくなった彼に、それじゃあパン皿と箸とスプーンを持って行ってください、とお願いすれば、ん、と安堵したような声を出して頷いた。
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