K(アニメ)二次本文

□かえす
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まるで刷り込みのようだ、と思った。
生まれたての雛が初めて目にしたものを親だと思うように。
彼は、初めて自分の世界の殻を破ったその人間だけしか見えないようにさせられた。

でも、今は。








彼は初対面の人間にはいい印象を与えない。

けれど、それなりに付き合って、話してみればなんてことはない。
少しすれて拗ねてしまっただけの少年だった。

「秋山さん」

レタスをちぎってサラダボウルの中に放り込んでいると、後ろから声をかけられた。

「なんか手伝うことってありますか?」

「いえ……あ、伏見さん。アスパラって食べれましたっけ」

「……まあ、一応」

確認に頷いた彼によかった、と自分の記憶が間違っていなかったことに胸をなでおろして、すぐそばにおいてある太めのアスパラガスを見やった。

伏見の偏食はわりと激しい方に入るだろう。

たとえば、きゅうりは何をしても食べない。
というかウリ科はどれも嫌いらしい。

前にメロンを嫌だと言った時には隊に衝撃が走った。

ただし、トマトやナスは調理法によっては食べる。
意外とカリフラワーは好き。
ただしブロッコリーは嫌い。

キャベツは嫌いでレタスは食べる。
菜の花も嫌い。
ほうれん草は好き。

調べてみると種が近い似たようなもので好き嫌いがけっこう統一されている気がする、と秋山は思う。

あと油が多いものは好きではないから炒めるより煮たり蒸したりした方が食べる。

日高あたりはお子さま舌なのではと言っていたが、そうでもない。
味が濃いだけでは食べない。

もちろん、そういう傾向はあるのだろうが。

手元にあるボウルの中身を見て、少し安心した風を見せる彼に笑いかけた。

「もうすぐできるので座っててください」

「…皿くらい持ってけます」

それからオフの時には、ちゃんと年上には敬語を使う。
仕事中では呼び捨てにする名前も、オフではさん付けで、初めてオフで話した時には驚いたものだ。

仕事と休暇は分けるタイプらしい伏見は、仕事では遠慮容赦なく罵倒を浴びせるが、オフでは意外と年上をたてる。
押せば断れずに流されたりもするし、辞退するにしても少し困ったようにしていて仕事中の姿とは大違いだ。

そんなところに気づけばみんなかまわずにはいられない。
なんだかんだで年下の彼は可愛いのだ。

それは秋山も同じ・・・・・・というより最初に気がついたのは秋山だった。
特務隊の中でも世話焼きで、そう怒ったり苛ついたりもせず、簡単に折れない。
そして距離の取り方もうまい秋山は、自然と扱いにくい、新しい上司係になった。
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