K(アニメ)二次本文

□本当の気持ちなんて
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猿、おい、猿、猿比古・・・

「猿」

「ん・・・」

美咲の声が聞こえた気がして目を開けると、すぐ近くに美咲の顔があった。

「美咲・・・」

その顔に浮かぶ心配そうな色に気がついて、次いで今の声は気のせいではなかったんだ、と思い至る。
それが嬉しいのか悲しいのかは、低血圧で寝起きが悪い猿比古の今の頭ではうまく考えられなかった。

いつものように悪夢でうなされていたのだろう。
隣に寝ていた美咲が起きて、猿比古を見ていた。

「…猿、だいじょーぶか?」

心配そうに美咲がのぞき込んでくるのに、猿比古は思わず目をそらして伏せた。

まっすぐ見つめてくる目が今は恐ろしかった。

今は猿比古を見てくれる。
今は猿比古しかいないから。
けれど、他の何者かが入り込んだ瞬間、美咲は他の人間へ、そのまっすぐな目をむけるだろう。

それを思っただけで、体温の高い美咲から伝わってきているはずの熱も分からなくなりそうだ。

「…なんでもない」

「猿」

「なんでもない…から、」

心配だ、と全身で語る美咲に大丈夫だと伝えて、少し黙ってもらいたい。
心配されるのは落ち着かないし癪だ。
美咲のくせに、と八つ当たりのように思う。

くい、と美咲のシャツのすそを人差し指と親指でつまんだ。
その状態で、寝起きの少し揺らぐ声でもって、うまくまわらない頭だからこそ言える言葉を放った。

一緒に寝てて

「…」

猿比古が再び目をつむると、美咲も問いただすのを諦めたのかため息をついて同じように横に寝転んだ。

その腕が背中にまわされて、ぎゅう、と猿比古を閉じ込めた。
前からも後ろからも熱が伝わってくる感覚に、猿比古は

「…美咲、苦しい」

「ぅ…うるせー、暑いんだよ」

「…くっついたらもっと暑くなるだろ。意味わかんない」

「お前の体温低いだろ」

「俺は保冷剤かなにかかよ…」

言い合っていれば、気が紛れた。

夢で少し冷えていた胸が体温のあたりまで戻って、息をついた。
なぜか、眠っている間に美咲の方が上にずれていて、抱きしめられて見えるのが鎖骨のあたり。
くすぐってえ、と言う美咲にうるさい、と返せば呆れたようにお前なあ、と声が降ってくる。

そんな馬鹿みたいに平和なやりとりを続けていれば、ふっとまた眠気が襲ってくる。
しばらく前まではただ忌々しいだけだったそれも、今はふわふわした気分で迎えられる。
言葉のキレが鈍って、それに美咲が気づく。
猿?と自分を呼ぶ美咲の声にいつもよりももっと安堵した無防備な気分で笑った。

まぶたを閉じて、触れている部分から伝わってくる熱だけ感じる。
周りの空気が暑いだなんて知ったことか。

美咲

声に出さないで唇だけで呼んだ。

言わなければ伝わないのは知っていても、自分と美咲の気持ちが食い違っているのを目の当たりにするのは辛い。
だからその後に言いたい核心は胸の中だけで響いていればいい。

おやすみ、といつもと打って変わって静かな声を最後に猿比古は眠りに落ちた。
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