K(アニメ)二次本文

□本当の気持ちなんて
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好きだなんて言えるわけなかった。








美咲が猿比古を好きであるのは、猿比古も知っている。
けれど、美咲のそれと猿比古のそれは違うと猿比古は感じていた。

猿比古は美咲といるようになって、二人だけの閉じた世界を一番に思うようになった。
端から諦めていた下らない世界との繋がりを断てればいいのに、と願うほどに。

美咲は猿比古と一緒に行動するようになってもまだ、外に刺激を求めていた。
つまらない世界が猿比古といてマシになったように、もっとマシに、楽しくなればいいと言った。

そう、互いの世界の齟齬に気づいてから、猿比古は美咲と寝る時うなされるようになった。
昔から眠りは浅く短くしか眠れないのが、美咲と一緒に眠れば不思議と眠れる。
それほどに居心地はよいのに、それなりの頻度で見るのはいつも決まって同じ夢。




美咲、美咲、おいていかないで
好きなんだ、美咲しかいないし美咲の他なんていらない、美咲だけいれば俺は安心してられる
だから、美咲、お願いだから俺をおいていかないで――――




夢の中で何度も手をのばす。
へたり込んで動けない猿比古に見えるのはいつも美咲の背中。
いつものようにまっすぐなにかを見て走っていってしまう。

それはいつか訪れるだろうと分かっているからこそ恐ろしい。

夢の中では思っていることをただ叫べる。
けれど、現実ではうまく伝えるどころかまったく別のひねくれた言葉ばかりが飛び出す。

伝えようと言葉にしなければ伝わらない。
特に、美咲のようにまっすぐにしか見ない人間には、ちゃんと言わなければ伝わらないのに天の邪鬼な猿比古の口は本心なんてろくに話してくれはしない。

このままでは、美咲を引き止められない。
そんなことは分かりきっているのに、猿比古は今日も言えずに夢を見る。
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