K(アニメ)二次本文
□フルカウント
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甲高い音を立ててヤカンがお湯が沸いたことを主張した。
それを持って秋山はキッチンの奥へと姿を消した。
次いで流れてくるゴポというくぐもった音と柔らかくどこか甘さを含んだ香り。
本当はコーヒーが苦手なのだということを知られてから、職場以外で秋山が淹れるのはミルクティーやココアのような甘いものになった。
今回は紅茶だ。
ただのブラックとかではないのは、執務中に口にするのが食事代わりのゼリー飲料やブロック、栄養ドリンク以外ではチョコやアメだからだろう。
確かに副長のあんこは無理だが、俺は甘いものは好きだ、わりと。
ろくに物を入れていない冷蔵庫の開閉音、砂糖を入れた容器のフタが開けられる音、カップだろう陶器の触れあう小さな音。
一人でいる時には無縁と言っていいその音たちを聞いていると何故か、心が軽くなる。
おそらく他のヤツがしたところで舌打ちしかもれないだろうに、なのに。
「伏見さん」
キッチンから出てきた秋山に声をかけられて、ひくりと震えた。
体育座りの、足と腹の間にはさまれた丸いクッションがやんわりと潰れる。
「ミルクティー、でよかったですか」
「・・・・・・どうも」
小さく頭を下げれば、笑みが返る。
それは職場などで見かける作り笑いにも似た、空気の地続きのようなものではなく自然にこぼれたもののようで、唇を引き結ぶ。
この部屋では外のようにへらへら笑うことがないくせに、笑っている時間はそう変わらない気がする。
その理由は考え始めたらダメな気もして、考える理由も見つからないのでそこらへんに転がしたままだ。
目の前にある、天板がガラス製のローテーブルにことりと置かれたマグカップは淡い緑色。
秋山はもう一つ、左手に淡い青色のマグカップを持っていて、テーブルの反対側に座った。
うすっぺらい白のクッションの上に、正座で。
勝手に持ち込んだ雑誌を開いて、マグカップに口をつける男は自然体で、この場に馴染んでいる。
こういう時、秋山は実はけっこう厚かましいのかもしれないと思う。
そう思うだけで、それに付随する何かは特に何も浮かんではこないのだが。
秋山がこちらを見ていない隙にとマグカップを持ち上げる。
いつも職場での飲食ではそうは思わないのだが、オフでものを口にする時は誰かに見られていると落ち着かない。
熱いのは得意ではないが、秋山はそれも織り込み済みらしく持ってくる時にはちょうどいい温度になっている。
初めからではなく、徐々にそうなっていったからこちらの反応を確かめつつ調製してきたのだろう。
他のヤツにもこうなのだろうか。
そうであることを願う。
自分にだけ、というのも少々おそろしい気がするから。