あいのうた

□program4
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名無しさんside



何事も適度というのは難しい……と思う。


気にしすぎもよくないし


考えすぎもよくないし


分かっているんだけれど


分かっていても……


"前鬼は名無しさんを喰いたいんだろう?"



『もぅ……』



豊前さんってば、変な事おっしゃるから……


郷のお屋敷より少し小さくなったお部屋に前鬼さんと二人きり。


考えすぎて


考えすぎて



『……眠れなかった』



冷たい風を受けながら、早朝部屋をでた。


今まで15センチの安心していた距離が、なんだか急に近く感じて


ドキドキして……


例えば


"本気やったら……?"


大きな翼に驚いた私に落ちてきた唇


例えば


"ひゃあっ!?"


寝ぼけて首筋に触れた唇


例えば


"……すんで?"


好きな女の子には触れたいと思うのが男性だって、ハッキリ言い切った彼



『……。』



強引な事をするような人じゃないって分かってても、そんな諸々を思い出してしまって……


……眠れなかった。



太「おはようございますっ!!」


ビクッ
『わぁっ!?』

太「っ!?」



突然かけられた声に、身体が跳ねる。



『ぁ……た、太郎くん……』


太「名無しさんさん……?」


『おはよう。』



危ない……


考え過ぎはダメだって考えてた傍からこれじゃ……



『太郎くん、私も朝食の準備手伝うよ?』


太「はいっ!ありがとうございますっ!!」



きっと、前鬼さんにはすぐに見つかっちゃいそうだもの……。



ーーーーー




皆さんの食欲は計り知れないものがあって……覚悟して支度をするけれど



伯「名無しさんさん、前鬼さんを起こして来てくれますか?」


『ぇ……。』



伯耆くんも加わると、支度は早くすむ。


伯耆くんの言葉に固まる私に



伯・太「………?」


『ぁ……。』



二人とも、首を傾げた。


ダメダメ。


考え過ぎちゃダメだってば……っ!



『わ、わかっ……わかっ、た!』


伯・太「名無しさんさん……?」


『い、い、いっ……て、きます!』


伯・太「………。」



しまったぁぁぁ……!


滅茶苦茶噛んだっ!!


絶対に二人とも可笑しいと思ってるよね!?



『とにかく……』



自分と、まだ寝ているであろう前鬼さんの部屋の前


ゴクッと唾をのみ



『………。』



スススッ……


っと障子を引く。


敷いたまんまの布団で寝ている前鬼さんを起こすため。


……けれど



『……あれ?』



探していた姿が見当たらない。


部屋の中


敷きっぱなしだった布団は片付けられていて……



『どこに……』



行ったんだろう?


洗面所かなぁ?


障子を閉めかけた時


ぐんっ!!



『わっ……!?』



障子の影から逞しい腕が伸びてきて


私は呆気なく、背中からその腕の中に閉じ込められた……


背に感じる、まだ寝起きの高い体温に


どきんっと脈が踊る……



『ぜ、ぜぜぜぜんっ、きさ!?』


前「……"ぜ"が、多すぎや。」


『そうじゃなくって!』



だって!


急にっ!


びっくりして……!



前「ドッキリサプライズや!驚いたやろっ!?」


『……前鬼さん。』



要らない……


こんな心臓に悪いサプライズ……



前「そろそろ起こしにくる頃やと思っててん!」


『もぅ!それなら自分で起きてき……』



抗議しようと振り返る。



『て…よ………』



けど



前「……名無しさん、おはようさん。」


『ぁ……』


前「ん……?」



前鬼さんが、あまりに穏やかな眼差しで私を見下ろしているから……


また……


心臓がドキドキと高鳴りだす。



『おは、よう。』


前「おぅ。」



こんな気持ち、貴方に会うまで知らなかった。


自分の心臓がこんなにドキドキ鳴るなんて、知らなかった。



『ご、ごはん出来るから着替えてきてね?』


前「ん……」


『じゃあ私は準備に……』



赤い頬を隠すように


くるっと背を向け



前「……名無しさん。」


『ぇ……?』



呼び掛けに覚悟して振り返る。



前「ピアス……よぅ似合うとる。」


『ぁ……』



優しく微笑む


悪戯好きらしい前鬼さん……



『ありがとう……』



あなたは本当に


心臓に悪い人だなぁ……




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