フェイク×前鬼

□戦場はエコロジーを目指してます。
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名無しさんside



エコって……なにかしら?
そこらじゅうでよく耳にする。
エコな時代を目指すために、当然私の勤務先もエコの流れに乗る気マンマン。


いや……いいけどね?



『よいしょっと……』



2m近い高さの脚立に立って、電球交換。
ゲームセンターで使ってる電球……
どれほどの数があるのか数えきれないけれど。

全て、LED電球に交換ですって。



このバカ広い……いや、失礼。
この巨大なゲームセンターの中にある電球はきっと"万"じゃ足りない程あって……


全てって……
どれだけの時間と費用がかかるのかしら?



前「名無しさん、さっきのトコ終わったで。」


『ありがとう、ここやったらチェックするから隣の照明もお願いします。』



心の中で不満を呟く私のトコに脚立を肩に担いでやってきた前鬼さん。



前「あそこ一帯やっといたで。」


『え……』



……もう?
私まだ終わってないのに。はやぁ!!




『……今、確認します。』


前「おぅ。」



入ったばかりの新人、前鬼さん。
今日はちゃんとアクセサリーも外してくれてる


ガシャガシャと脚立から降りる私を見て



前「ん……気ぃつけぇや。」



脚立を押さえて、さりげなく空いた手でもしもの場合に備え背中に手を添えてくれた



『あ、りがとう。』


前「おぅ。」



彼にしたら当然の事……なのかしら?
イケメンで気さくで紳士的。
そりゃぁ女子も騒ぐわ。


彼にお願いしていた持ち場を確認すると



『うん、全部オッケー!!』



天井の照明は全てLED電球に交換されていた。
仕事が早い新人さん、大歓迎。



客「あの、すいません……」


『はいっ。お伺い致します!!前鬼さん、少し待ってて?』

前「おぅ。」




どんなに仕事があろうが、お客様優先。
だから出来るうちに雑務を進めないといつになっても終わらない……


お客様の対応を終え戻ると、前鬼さんはそれを理解してるかのように私が担当していた照明の交換を進めてくれていた



『……。』



出来る人だなぁ。
なんて感心しつつ、その姿に見とれちゃう……
黒い制服はどの男性陣より似合っているし、長い手足で脚立数段上がるだけで電球に手が届く。


一番上までイチイチ上らなきゃいけない私とは大違いね……羨ましい



『前鬼さん、ありがとう。』


前「もぅ、終わる。名無しさん、そこ居ったら危ないで?」


『え?』



脚立の傍に寄った私を見下ろす彼。



前「交換中の電球が落ちてきたらどうすんのや?危ないやろ。」


『あ……はい。』



前鬼さんの声に一歩下がる……
工具箱や脚立を毎日担いで走り回っているから、アザや多少のケガなんてしょっちゅうで

今さら、気にもしなくなっていたけれど……。久しぶりに、そんな事言われたなぁ。



前「これで……三階の半分は終わりやんな?」


『うん。』



朝から二人がかりで交換し続けて、一フロアの半分……もうお昼だし、駄目だっ!!終わらない
マシンどころか天井の照明すら終わらないよ……!!



前「しっかし……かなりの量やな。」



私達の目の前には、交換が終わった何十個の電球の山。



前「これ、どーするん?」


『捨てるんじゃない?』



まだまだ使えるけど、時代の流れに乗る為に。大量のゴミを出す……


なんだろう、エコって。
うーん……



『やっぱり、バカなのかな?』



もはやコレ、エコじゃないでしょ?
なんて本音を漏らした私に前鬼さんは呆れながら突っ込む



前「……言うてもうたな。それ言うたらアカンのちゃう?」


『だって……』



そんなトコへ



店「箕輪です。名無しさんさんインカムとれますか?」



店長からのインカム。
お昼かしら?



『名無しさんです。インカムどーぞ。』


店「電球交換、どれくらい終わりました?」


『三階の天井半分です。』



頑張った方だと思ってた。けど……



店「……………了解しました。前鬼さんと休憩で!!」


『……了解しました』

前「了解!!」



今の"間"……あれは納得いかないって合図でしょう?そんな些細な事で私のストレスは少しずつ蓄積されていく…


なら、さぁ?
貴方には出来るんでしょうね?やってみせて下さいよ。
……なんてつい、思っちゃうのよね


いかんいかん。


はぁ、とため息ついて脚立や電球を片付ける私をみた前鬼さんが一言。



前「……なんや、名無しさん。へこんどるん?」


『別に……』



これくらいでヘコんでたら、身が持たないわよ。




『……って。前鬼さん、"さん"付け忘れないで?』


前「もぅええやん。」

『よくなぁいっ!!』



これくらいでヘコんだりしない。
私も。ヘコむ程、何かに期待しちゃいないの……



ーーーーー
名無しさんside



『失礼します!!』



休憩室に入ると



舞「名無しさん、おつかれ!!」



仲良しの舞が笑顔で向かえてくれた。



『まぁーいぃー!!疲れたよぉ!!』


舞「うんうん、よしよし。前鬼さんもお疲れ様。」


前「おぅ。」



ガバッと舞に抱きつく。
あぁやだ。もぅやだ。
そんな気持ちが癒されるような気がして



舞「インカム聞いてたよ〜、店長厳しいね。」


『厳しすぎるよーっ!!りかさんには絶対あんな反応しないくせに。』


舞「期待してるんだよ、名無しさんに。」


『ん〜……』



"りかさん"ってゆぅのは、お人形みたいに可愛い女の子。
いつもメダルのカウンターでニコニコしてる。


お客さん受けいいから、皆甘いのよね……
まぁ、可愛い女の子は嫌いじゃないけど……かといってぶりっこも好きじゃあないかなぁ?



前「期待されとるなら、えぇんちゃうの?」


『………。』



私達の話を聞いていた前鬼さんがパンをかじりながら、舞に抱きついたままの私に声をかけた。



舞「そうよね?ほら、名無しさん。頑張って!!」


『はぁい……』



後輩くんに言われちゃったら、納得するしかないなぁ……?先輩、だし……渋々舞から離れて頷く。



舞「んじゃ、お先にフロア戻るわ。」


『いってらっしゃい……』



一礼して、休憩室を去っていく舞。
しばらくして耳に差したままのイヤホンから


舞「舞です。休憩あがります。」



彼女が戦場へ戻った声が聞こえた。


この仕事を始めてから、ここまで仲良くなったのも舞くらいで……
皆、仲は良いけれど
どこかうわべだけのような壁を感じる。


踏み込まれたくない領域ってのは、皆持ってるんだろうなぁ……




『………。』


前「なんや……?」



早くも3つめのパンをかじる、この人にも……その領域はあるのかな?
なんて、ふと思った。


てか……どんだけ食べるの??



『ねぇ、今日アクセサリー外してくれてるよね。』


前「外せ言うたのは、名無しさんやろ?」



私じゃないよ。
会社の決まりだって言え……って店長がマニュアルを渡してきたの。


ってゆーか"さん"付けする気ないのかしら?



『なんで昨日は外せなかったの?』


前「……は。」


『なんで今日は大丈夫なのかなぁって。』



ただの興味だけど……聞かれたくないなら、うまくはぐらかしてくれればいい……
踏み込まれたくない領域は前鬼さんにもあるのかな?



『あんなに外すの渋ってたのには何か理由があったのかなって……女の勘?』


前「……痛い事せんと、外せないんや。」


『ぇ……?』



痛い…事……?


さらっと言ってのけた
苦々しく笑ったその顔は、なんとなく寂しそうに見えちゃって……



『ごめん……?』



なんとなく、謝ってしまう。
胸が痛んで……

あとは私にも触れられたくない部分はあるのに、そこに触れてしまった事への罪悪感……



前「は……なんで謝るん?」


『なんとなく……?』


前「なんやそれ。」



ふっと苦笑した前鬼さんの手が、ぽんっと頭にのっかる。


『………。』


手が伸びてきた瞬間、心の中で身構えてしまう癖は……今更なおらないと、思う



前「他のやつには内緒、な?」


『……うん?わかった。』




なんでかは分かんないけど……この時は深くは考えなかった。そう返した方がいいんだろうなって


頭に乗せられた手の温かさばかりが気になって……



いつも通り、いくつかのパターンの中から"最も適した選択肢"を選んで返事をした



ただ、それだけ。



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