infringe×前鬼

□救難信号
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千代side



夜叉らしく振る舞えば振る舞う程


苦しくて


窮屈な気持ちになる



報いはなくとも


救いはなくとも



それだけが、私の使命なんだから



例え自分を愛せずとも



その道を行くしかないのなら




"身代わり"



なんて呼べる大層な事じゃない。




『天狗を殺したくなっただけ。夜叉なんだから当たり前でしょ?』



私には当たり前じゃなくとも、夜叉ならば……


そこに喜びを感じなければいけない。




ねぇ


だから言ったじゃない。



優しいはずないって。


信じる価値なんてない


立派なんかじゃないって。






これで良くわかったでしょ?


キリキリ痛む胸をしまいこんでにっこり微笑むと



前鬼さんは



前「こっんの……」


『………?』



前「どアホゥっ!!」


『っ!!?』



大声で、怒鳴った……



そして



私を引き寄せ



……たかと思えば



『きゃぁっ!!?』


赤・青「!!?」



勢いよく、担いだ。



『な、なにす……!血がついちゃ…』


前「知るか!!黙っとれ!!」

『なっ……!?』




なんか



予想と違う……っ!?



たどり着いたのは浴室で


前鬼さんは浴槽へ



ポーン…
『っ!?』


バシャーーン……。



私を投げた。



『つ、冷たっ……!!』


赤「千代しゃま!!」



まだ水……っ!!


ってゆーか



ザバッ

『何すんのよっ!!』



全身びしょ濡れで立ち上がる。


服が、重い……


吠える私に



前「反省せぇっ!!」

『っ!!?』



前鬼さんはまた怒鳴る。



赤「千代しゃま大丈夫ですか!?」

青「遣い魔の分際で何を…」


噛みつく小鬼を



前「うっさいわ!!散れっ!!」


赤・青「っ!?」



さらに怒鳴りつけ、隅にやると



前「……千代。」


『……っ!?』



ツカツカと歩みより



前「……なんで無理するん?」


びしょ濡れな私を


抱き締めた。



『む、無理なんか……』



前鬼さんを押し退けると



前「じゃぁ、何で泣くん?」


『ぇ……』



また


優しく笑って



前「好きや。」


『……っ!?』



浴室に優しく響く声



固まる私に



『わっ!?』



彼は大きな手で私の髪をグシャグシャに撫で



前「しっかり落としてくるんやで?」



ニッと笑って去って行く……




浴室にポツンと残され


『な、によ……』



好きって……



『馬鹿じゃないの……』



私の声が淋しく響く…



青「お召し物をお持ちします!」



『……ん。』



"しっかり落としてくるんやで?"



我が身を見れば


天狗の血に染まり


浸かった水も赤く滲む……




こんな状態で


『好きって……』



そんな優しい言葉、言ってもらえるような立場じゃないのよ


なのに


なんでそんなに優しさを向けるのよ……



赤「千代しゃま…」



浴槽のふちに腰かけた赤が尋ねる



赤「お好きなのでしょう?」


『赤……。』



好き、だよ。


気がつけば



『…っく、泣いて、なんっか……』



こんなに想いが溢れて……



でも


『言えるわけない…。』



私は、鬼なのよ?


匡さんにすら伝えられなかった気持ちを



自分が喰わなきゃならない相手に言えるわけない……



赤「千代しゃまを愛してくれる方はいらっしゃいますよ?」


『……ん。』



わかってるよ?


前鬼さんは馬鹿みたいに真っ直ぐだから、そんな嘘を言ったりしない。





嘘を塗りたくる私とは違うのよ……


ーーーーー
千代side


シャワーを浴びて血臭さを落とすと


少し


心が落ちついた。



『匡さん達は今頃大変だろうな……』



でも



合わせる顔なんて……



ガラガラ…

『らしく、ないな……』



浴室から出て、またため息。



命を奪った事に後悔するなんて


夜叉、らしくない……



美「千代さんっ!!」


ビクゥッ

『っ!!?』



み、美沙緒ちゃ……!?



今さっき、たった今会いにくいって思った所だったのにぃっ!!


待ち伏せしていた様子の美沙緒ちゃん。



突然



ガッ!!

『へっ!?』


私の腕をつかみ



美「行くよ!!」


『え……?』



ずんずん歩きだす。



『み、美沙緒ちゃん!?どこに…』



近づいてきたのは



『ちょ、ちょっと待っ…』


天狗当主と八大が集まっている部屋。



『待って待って!!』



合わせる顔が無いって……


もがく私に彼女はピタリ足を止め


振り返る。



美「もう出会ってるんだよ!?」


……と、一言。



『ぇ…と。何?』


美「千代さん、前に違う形で出会いたかったって言ってたでしょ!?」



"美沙緒ちゃんとはもっと違う形で…"



美「出会ってるんだから、これから関係を築けばいい!!」


『……美沙緒ちゃん。』




彼女もどうやら


恐ろしく真っ直ぐ……



『怖く、ないの?鬼なんだよ?』



天狗を殺してきたって笑うような……



美「千代さんは千代さんでしょ!?」


『……そりゃ、私は一人しかいないからね。』



ううん?


彼女が言ってるのは


もっと


優しい言葉。



わかってる、けど……


なんて返したら……



前「んなトコ突っ立っとらんと、中入ったらどうや?」


『っ!!?』

美「あ、前鬼さん!!」



気がつけば、部屋の扉は開いていて



匡・八「………。」

『ぁ………』



合わせる顔が無かったはずの皆さんと



ばっちり顔が合った……



伯「……どうぞ?お茶入れますから。」



勧められ、ぎこちなく席につく。



『………。』


目の前に出されたお茶。


これに何が入ってようとも


飲まなくちゃ……



匡・八「………。」



皆さんの視線を浴びて


『………っぷは。』



お茶を一気に流し込む。



……ん?



『あれ?美味しい……』



コメントに


伯「良かったです。」


笑顔と


前「なんや、そんな喉乾いとったんか?」


合わせにくい顔での呆れと


相「毒でも入ってると思いましたか?」

匡「ばぁーか。」



これは


悪口?馬鹿にされてる?



でも


『なんで……』



私を仕留めるなら、今だったのに……



匡「モノは捉え方次第、なんだろ?」

豊「聞きましたよ?前鬼から。」



あまりに優しい笑みと


匡「これ以上、殺させねぇよ。天狗も、千代もな。」



言葉をくれるから



『っく。ごめ、なさ……』



不安定な心が揺れて



溢れた……



"これから築けば"



どんなに望んでも



そんな選択肢



私には……あってはいけないの。


"
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