infringe×前鬼

□セルフ・サービス
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前鬼side



天狗の郷に戻ってから



正確には、ご当主の屋敷で千代が目を覚ましてから



前「なぁ、千代……」


ビクッ

『っ!!?』



呼び掛けに身構える千代。


ずっとこんな感じが続いとる。



前「………。」



まぁ、理由はわかってんけど……


んな警戒する、か?



前「新しい仕事って何なん?」


『そ……れは、これから皆さんと一緒に、話す。』


前「そーか。」



夜叉の屋敷を出る直前、一人当主に呼び出された千代。


そこで何を話とったのかは知らん。


新しい仕事としかコイツは言わへん。



……にしても



あの当主。



確かに比べモンにならん力を纏っとったが……



歪過ぎちゃう?



本当の姿も声も、全くわからんやないか……



前「なぁ、千代。教えてくれへんの?」


『だ、だから、皆さんと一緒に…』



そう語る千代は


俺から随分距離を開けて屋敷を歩く……



俺が聞きたいのは仕事やなくて、お前の気持ちやってんけど……



まだ当分、答えは聞かせてもらえそにあらへんなぁ。



前「……離れすぎちゃう?」


ビクッ

『えっ……』



いや、まぁ……


前「ええけど……」




ご当主らが既に集まった居間に入ると



伯「前鬼さんっ…」

美「大丈夫!?」



ギクシャクしながら千代が俺に巻いた首の包帯に反応する姫さんらと



匡「喰われずに帰ってきたのか…」

豊「奇跡の生還だな。」



微妙にシャレにならん言葉を吐くご当主ら。



前「……おぅ。」


テキトーな返事を返し自分の席につく。


この郷は落ち着いとるなぁ……



前「………。」



"温いんじゃない?"



千代が天狗の郷にきたばっかしん時、そんな事言うとったな……


確かに


ここと夜叉の郷は違い過ぎるわ……



匡「っつーかお前ら……」



ボーッとしとると、ご当主の声が耳に届く。


前「なんや?」

『………?』


ご当主は俺と千代の距離を見つめ、一言。



匡「離れすぎじゃねぇ?」
八・美「………。」



ホレみろ。ご当主か豊前あたりが突っ込むと思ってん。



集まる視線に千代は


『……っそ、れより!!』


匡・八「………。」


ゴホン、と咳払いし、話を切り出す。




『明日、郷の民を集めて下さい。』



その言葉に


匡「何故だ?」



そう思うたのは、ご当主だけやないやろ……



『仕事をするだけです。』



"仕事"なぁ……


あのスガヤっちゅう当主の様子じゃ、天狗を見逃しそうには思えんし……



『明日、民の前で皆さんにも同時にお話します。』




ご当主の屋敷では


"怖かっ……"



あない苦しがっとったクセに



"仕方ない……"



千代はまだ自分に嘘を塗ってくつもりなんか……


ーーーーー
千代side



どんだけ命を擦って


心をすり減らしても



思うように動かぬ現実に



どれだけ寝たって疲れは癒せないのに



朝はくる……








お屋敷前に集まった天狗の民…


私の後ろに控えた匡さんと、八大天狗。




そう、これは


『天狗の皆さんにご褒美です。』


匡・八「………?」



首を傾げる天狗



『夜叉へ忠誠の姿勢が変わらない事はよく分かりました。』



それは、匡さんたちの働きのお陰だけどね?



『特別に夜叉の"力"を授けましょう……』



その言葉に


「夜叉様のお力……」

「神のようなお力を我々に!?」



ざわつく、温くて疎い民



匡「千代……何を考えてる?」

八「………。」



さすがに匡さんや八大は警戒してるようね?



『力を授け終えれば、支配も解放しよう。』



甘い言葉に


「夜叉様!!」

「こんな光栄なことはない」

「お力を…」



舞い上がる天狗の民


まだ



平和ボケしてんのね?






民に笑顔を溢す。




『力を求める者は私の身体を喰らいなさい……?』




その言葉に


「「…………っ!!?」」


鎮まる民と


匡「お前っ……」

前「千代っ!?」

八「………っ!?」



固まる、選ばれし天狗当主と八大。



これは



ゲームなの。



スガヤ様の掌の中のね?




『支配を解かれ、力を手にしたいのでしょう?』



ならば



『私の身体の肉を喰らえば全て手に入るわよ?』



でもね?


ただ、差し出すわけじゃない。



『忠誠心を崩し、刃を向ける者から……私は喰らう。それに勝った者に、その褒美をやろう。』



甘いアメを目の前に



おあずけを続けるか



永遠の弱者を選ぶか



命と引き換えに刃をとるか……



『褒美を待ってるだけじゃ、何も出てこないわよ?』



逃げ切るか、鬼に捕まるか


喰うか、喰われるか……




最後に笑みを浮かべれば




やっぱり私は




夜叉なのよ……。


"
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